第4話 風の惑星ミューブ

パートF

 

 

シールド装置と『生運命の歯車』を外した身は軽く感じ

あたしは思わずウォーミング体操をした

 

ソラ

「えぇっ!?」

「ナスカ、なにやってるのよ!?」

 

「それがないと…あなた…

 ただの人間と変わらないじゃない!?」

 

ソラの叫びに、子分たちがざわめく

 

そしてゼェハェと肩で息をしている船長が

光線銃のトリガーガードから指を離すのが見えた

7つ目の眼帯の子分

「んぇ!?」

「マジモンの丸腰…!?」

 

金髪の1つ目部下

「手ぇ抜くなんて、舐めたマネすんじゃねぇよ!」

「度胸試しで覚悟の違いみせようってか!?」

 

「船長をなぁ…バカにすんナッ!!!!」

 

ナスカ

「うぅん、あたしが見せるのは覚悟そのものじゃあない」

「死の覚悟の…その先!」

 

「『死ぬほど生きる』ための知略…即ち、切り札!」

 

エリオット

「死ぬほど……生きる…??」

ナスカ

「エリオット船長!」

「若いとか老いとか、死の前では平等でしょ?」

 

「―――今こそ、あたしとアンタは対等だ!」

 

「死ぬ気で、あたしを死なせて見せなさい!」

「その時、この『死ぬほど生きる』道が見えるから」

 

「そのしょっぱい生への執着

 あたしがぶち壊してあげるよっ!!」

 

あたしは銃のジェスチャーで

自分を顎下から打ちぬく仕草をした

 

エリオット

「あんたと対等…だとぉ…?」

「ワシが生に執着してるっつったかぁ!?」

 

「ハッ!」

「――――ハハ、だははははは――ッェ!」

 

エリオット船長はうずくまった背中を揺らして笑いだした

そのアクションに引き寄せられる様に、

これまでの比ではない数の悪霊たちが集まり出す

 

今の船長はもはや、

黒いモヤモヤを纏った不定形の生き物だ…!

 

悪霊

「キュゥナァキュゥナ―――ッ!!」

「ホホェホヒフェェオォ―――ッ!」

 

エリオット

「うるせぇ!この負け犬どもぉお!!!」

 

エリオット船長は黒いモヤモヤのまま

力強く叫び、強引に立ち上がった

エリオット

「だはははははは!!!!」

「赤角ちゃんよォ!!…懐かしい気分だぜぇ……!!」

 

「……いやァァ、たしかになァ~ッッ……!!!」

 

「家族だとか船員どもとか…にィ、

 絆されて、老碌しちまってたあみてぇだ…!」

 

「若いころのよォ~、あのプッツン…!とした感覚ッゥェ!」

 

「てめぇをブチのめす!!!」

「――っつうよォ、ただただ純粋な熱さをよォ…忘れていたぜぇ!?」

 

船長の叫びに気圧されたのか悪霊たちは、

蜘蛛の子を散らす様にワラワラと雲散霧消した

エリオット

「見ろよ!悪霊どもは、もういねぇ!」

 

「そうだ…今こそ、あんたとワシは対等でぇ」

 

「全てを投げ打ってでも、冒険者ナスカ・テンタクルス…!」

「てめぇの眉間に風穴を空けてやらァ!」

 

そういって船長は毅然とした姿勢で

光線銃のトリガーに指をかける

ソラ

「ちょ、ちょっと!ナスカ!」

「それは無駄死によ!引きなさい!」

 

メーチュ

「ソラちゃんッ!」

「――――仲間を信じて…ッ!」

 

「船長さんは…ナスカちゃんを殺せない…ッ!!」

 

「髪の毛一本も動かす必要もなく、

 その弾は虚空のみを穿つ…ッ!!」

 

ソラ

「―――し、信じるって言ったって…!」

エリオット

「だははははっ!」

「言うじゃねぇかぁ…!!

 やっぱヴァイキングつったらよぉ『賭け』…だよなぁ!」

 

「いいぜ、この光線弾を受けてお前が生きてたなら…」

「―――航海士でもなんでもなってやる…!」

 

「その『死ぬほど生きる』道に一緒に堕ちてやらぁ!!」

 

ナスカ

「オーケー!」

「なら…あたしが負けたら―――

 その弾で完膚なきまで殺してくれたんなら…」

 

「そこに落ちてる『運命の歯車』をあげる」

「どうかなっ?」

エリオット

「ははははっ!」

「分かってんじゃねぇか!」

 

「それがこの世界にとってぇ貴重なもんってのは

 この身で痛感してるもんでよぉ、丁度いい…!」

 

「交渉は成立だ」

店の大きな窓からはミューブ下層の油臭い風が強く吹き抜け、

雲海の白銀が暗い店内に柔らかな薄明りを投げかけていた

 

舌が少し乾く

だけど…あたしはただ未来を信じ、腕を組んだ

 

阻む者ももはや居ない

 

エリオット船長は揺るぎのない覚悟で、銃を構え対峙する

 

エリオット

「―――思い出させてくれてありがとぉな、赤角ちゃんよぉ」

「礼しかねぇぜ…」

 

「 あばよ 」

 

そして船長はゆっくりと引き金を引いた

 

バシュンッ!

 

放たれた光線弾はその威力をギラギラと見せつけるかのように瞬き

音速を優に超える速度であたしの眉間に飛び込んでくる

 

ソラ

「ナスカ―――ッ!!」

 

光線の空気を焼き切る轟音の奥にソラの叫びが響く

 

だけどその更に奥の奥……

窓の方から微かな破裂音が鳴ったのが聞こえた

 

ナスカ

「… 来た!」

 

 

ヒュンッ!

——と窓から飛び込んできたのは一発の『銃弾』

 

銃弾は器用にも光線弾の先端を弾き飛ばし

その進路を捻じ曲げた!

 

そして―――

 

ドォオオンっ!!

 

軌道を変えた光線弾は店の窓を飛び出し

そのまま違法建築物たちを愉快に吹き飛ばした!

エリオット

「はじか……れたッ!?」

 

ソラ

「こ…光線弾を――ッ!?」

 

ソラはすぐさま強力な歪みの源を解析し『彼』の場所を導いた

そして窓に乗り出して、叫ぶ

 

ソラ

「あそこ!」

「800m先35m上方、壁面家の屋根の上ッッ!」

 

エリオット

「ど、どれだぁ…!? ろ、老眼でよォ…」

 

ソラは「あぁ…もう~、コレ使って!」と言いながら双眼鏡を差し出す

 

ソラ

「強い『物質の理』の歪み…!!」

 

「あの距離からリボルバーの実弾で光線弾を撃ち抜いたのよ…!!」

「それも、船長が撃ったのを見た後から…!!!」

 

「どどど、どういう仕組みなの!?ゾ、ゾクゾクしてきた…ァッ!」

 

そこにいたのは『彼』

 

紳士なスーツを身に纏い、リボルバーを構えている

 

メーチュ

「ミスリルヘッド・フォ・バベル君」

 

「彼はわたしとナスカちゃんの大切な同期で…」

「冒険ギルド『ディバグ』の仲間…ッ!」

 

エリオット

「あいつが……

 お前の『死ぬほど生きる』ための切り札ってヤツかよ…?」

 

船長はこっちを振り返って問う

 

ナスカ

「切り札の1つだよ」

「ディバグの総員は28名! 全員切り札!」

 

ソラとヴァイキング一団

「28名ぃッ!?」

ナスカ

「まぁ~、半分は後輩弟子ちゃんたちだケド…」

 

「7つのスターメモリーを手にし、

 不死を望もうとしていたり、母星を救おうとしていたり…

 各々野望のもとに集ったバグたちなんだよ」

 

「全員がその早世を受け入れ、

 『死ぬほど生きる』ことを選んだ運命のモノノフ!」

 

「ディバグの『絆』こそ! 唯一の希望…!」

「この夢を絵空事に終わらせるつもりは、毛頭ない!」

 

あたしは悠々と運命の歯車を拾い、螺旋の傷に戻す

 

ナスカ

「あたしの名はナスカ・テンタクルス」

「バグのギルド『ディバグ』を取り締まる頭(かしら)」

 

「7つのスターメモリーを手にし、

 誰よりも輝かしい冒険をする冒険者だよ」

 

エリオット

「――――ッ!!」

 

「………そうか」

「誰よりも輝かしい…か」

 

船長は握っていた光線銃を義手に納め

食いしばっていた口からため息がひとつ、漏れ出た

エリオット

「―――輝かしいといえば、雲の反射だ…」

「白銀の雲海でゴーグル無しじゃあ眼が焼けらぁ」

 

「2つ目用のよぉ、新しいゴーグル…

 用意しなくっちゃなぁ!―――だろぉ!?」

 

老船長は憑き物が落ちたように大きく笑った

 

「だははははははっ!!!」

 

「賭けにまんまと負けちまったよぉ!

 大海賊の頭のクセにしてよぉ!!」

 

「約束通りこの身と我が身同然の船を

 赤角ちゃんたちの伝説に役立ててやらぁ」

ナスカ

「あはっ♪ それは嬉しい♪」

「けど、悪霊に乗っ取られたりしない?その船?」

 

あたしは盗んだ鍵を差し出すと

元の持ち主はニヤリと、受け取った

 

エリオット

「だ――はっはっはっはっ!」

「その時はこの脳天をぉブチ抜いて

 黒髪メガネを船長に据え置けばえぇ!!」

 

「ワシも覚悟することにしたぜぇ?」

 

「あの『風の王子』ってやつをブチのめすまで

 ワシらが死ぬこたぁねぇ……!心底、安心しなぁッ!」

 

エリオット

「改めてよォ!」

「ありがとうな、赤角ちゃん」

 

ナスカ

「あ~はっ♪」

「こちらこそ、船長っ♡」

 

あたしは両手を前に差し出すと、船長は力強く握り返した

 

窓から吹き抜く油臭い風は、

あたしたちを撫で、誘うように雲海へと流るる

 

その風はこの星の挑戦状のように鼻につき―

そして冒険の序曲のように…強くあたしたちの背中を押すのであった

 

 

 

カランカラン♪

 

ミューブ星都アプ・ストリーム上層の

冒険者大酒場に振り鐘の音が荷り響いた

 

ミミズクのマスター

「超強風注意報~!」

「予報によれば4時間は突風が続くンでぇ~」

 

「それが止むまでは、出航キャンセルッス~!」

 

酔っぱらいの客

「おい~!出航の瞬間が 一番の楽しみだっちゅうのにぃ!」

「冒険者のヤツら日和ってンじゃねぇの~ッ??」

店内にはブーイングが飛び交っていたが

予報通りビュンビュンの突風が吹くと

橋先にある酒場は音を立てて揺れ、みな悲鳴を上げた

 

「あぁああああっ!!」

「壊れる壊れるッ!死ぬ死ぬ―ッゥェ!」

 

ミミズクのマスター

「雲海の突風はまさに死神ッスよ~」

「体幹弱い人はバルコニー席のご使用はご遠慮下さ――――」

ボォオアアアアアア――――っ!

 

その時、雲海に地響きの様な咆哮が響き渡った

 

客たち

「な、なんだ―――っ!?」

「揺れてる…うるせぇ――――っ!」

 

「い、いや出航口からだ!なんか近づいて来るぅ――っ!??」

ボォァアアアアア――――ッ!!

 

音は店を揺らし、全員が腰を抜かした

 

雲海に現れたのは巨大な鯨型の怪物

 

客たち

「あ、あれは…アクタルテン――――!?」

「やべぇって!あんなヤツがここまで接近するなんて!?」

 

ミミズクのマスター

「い…いや違うッスよ」

「あれは……『船』ッス…!」

 

客たち

「ふ、船ェ!?ウソだろ―――ッ!?」

 

その時、望遠鏡を持った客が「あいつは!?」と指を指した

視線の先には船の甲板で手を振る少女がいた

 

ナスカ

「おぉ~い!みんな~~~~!」

「出航だぁ――――――――ッ!!!!!!」

 

客たち

「あれは…ナスカ・テンタクルス!!!?」

「なんだってあんなバケモノ船にィ!!」

 

ミミズクのマスター

「―――伝説を蘇らせたんスよ」

 

「あれはアクタルテン【鯨】…!

 この星一番のヴァイキング…エリオット団の雲海船~!」

カランカランッ♪

 

マスターが振り鐘を鳴らす

 

ミミズクのマスター

「死を誘う荒風すらも帆に受けて~

 轟音響かす珍船は旅に立つ~♪」

 

「航海士の名は慟哭のエリオット、泣く子も黙る雲海の荒くれ者!」

 

「そして、伝説を叩き起こした破天荒な風雲児」

「螺旋の冒険者ナスカ・テンタクルス~!!」

 

パンパン!ワーワーワー!

彼女の予想だにしなかった逆転劇に困惑しながらも

客たちは祝砲と歓声をあげた

そして同時に狂気的な雄叫びを上げる者もいた

穴あき帽子のラバンだ

 

穴あき帽子のラバン

「うおぉぉぉぉぉおおお!!」

「ほれ見ろ、ほれ見ろお前ら!だから言っただろ!」

 

「『ナスカ嬢は今日中にドえらい船を見つける』ってェ――!」

「掛け金だ!ホラ、掛け金を寄越せ!!」

 

賭博でもやっていたのだろう

参加していた冒険者たちやらは渋々ラバンに金を投げつけた

 

穴あき帽子のラバン

「ウヒィ―――ッ♪ 200キーン紙幣が100倍になっちまった♪」

「愛してるぜぇー!!ナスカ嬢ちゃんよォーー!」

 

「あんたなら一年で『心のスターメモリー』を見つけられるサ!」

「さぁ、これに賭けるヤツはいるかぁ~!?」

 

ラバンの問いかけに皆はたじろいだ

彼女の旅を冷笑する者は、もう誰一人として居なかったのだ

ミミズクのマスター

「だけど、この旅は未知への旅路」

「どうか…ナスカさんの行く先に良い風が吹くことを祈るッス…」

 

酒場のマスターは一抹の不安をこぼしたが

そんな心配はどこ吹く風

鯨の雲海船は悠々と雲の底へと潜航した

 

 

風の惑星ミューブ

終焉が空けた星の虫食いに流れる、白く深い雲の海

 

果たして、その終着点でナスカ一行が目にするものとは……

第4話  風の星ミューブ

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