第4話 風の星ミューブ

パートE

 

ミューブ下層の酒場「黒い煙モクモク停」

大人びて落ち着いてるはずの店内には騒然とした雰囲気が漂っている

 

その場のみなに注目される中、

あたしはエリオット船長から盗んだ船の鍵が気になっていた

ナスカ

「ミューブ一番の船ってもんだから

 なにかしらの遺物の一種だと予想してたけど…」

 

「鍵からすらも歪みの禍々しさが伝わってくるねぇ~☆」

 

エリオット

「なぁ、赤角ちゃんよォ…」

「それはもう戻れねぇ『ライン』だよなぁ?」

 

「船は航海士の命」

「冗談じゃ済まされねぇ、

 ケジメってもん、つけて貰わなきゃぁなんねぇよな!?」

ナスカ

「そっちこそ冗談じゃん」

 

「航海士はやめたんじゃなかったっけ?」

「命も何もさぁ」

 

エリオット

「――ッ……」

「…それでも大切な魂みたいなもんだろ!

 二つ目のクソガキにくれてやる道理はねぇ!」

 

「…!」

 

「ハァア…思い出した、テルミナ下層酒場の逸話!」

 

エリオット

「そこの親父さん、客が持ってきた遺物…

 『絶対に空かない宝箱』から触れもせず中身を『スって』、

 まんまと宝を自分のもんにしちまったって…!」

 

「『空間を超えてスる』」

 

「――どうやらその親父、娘に珍妙なスリ術は教えてても

 道義ってもんは一緒に教えてなかったらしいなぁああ…!!」

 

ナスカ

「あはぁ~♪」

 

「テルミナ下層酒場「ギンヌンガ・ガプ」のことかな?」

「こんな遠星にまで名を轟かせてて、娘として鼻が高いねっ♪」

エリオット

「クソがっ!」

「その達者な口から良い遺言が聞けそうだなぁ!?」

 

「まともな死に様晒してぇンなら、さっさとその鍵を返しやがれぇ!!」

 

碧眼の5つ目の子分

「おおおおやじぃ!お、抑えて!」

「悪霊が……悪霊がわんさか―――っ!」

 

呪われた船長が船への執着を出したからか

一気に店内は悪霊だらけになっていた

 

そしてその悪霊の2~3体が

あたしに向かってかすれた金切声で叫ぶ

 

悪霊

「シュィイシャウニャ――――ッ!」

 

子分たち

「ひいいぃいぃぃい――――ッゥ!」

 

ナスカ

「ウルシャ―――――――――ッ!!!」

 

子分たち

「えええぇぇ―――ッ!?威嚇したッ!?」

 

子分たちはビビり倒してたけど

あたしはあえて悪霊に反抗してみた

 

すると――――

悪霊

「――ッ!!!」

「アッゥエ…アッゥエ――ッ!」

 

ソラ

「悪霊がビビッて退散した…っ!」

 

メーチュ

「霊にも干渉は可能なのかな…ッ!」

「それなら船長さんの呪いも祓えるってこと…ッ!?」

 

「ナスカちゃん、『説得』…しようッ!!」

 

ナスカ

「ナスカ・テンタクルス!

 物心ついた頃からパパと2人暮らしであるからにしてぇ!」

 

「昔ヤンチャしてた男性老人に思考の柔軟性はねぇ、

 期待できないと思うンすよぉ~ね~?」

エリオット

「ったりめぇだ!ガキの浅ぇトンチに乗っかるかよ!」

「てめぇはここで殺す…!」

 

メーチュ

「う、うわぁあ…っ!頑固……ッ!」

「でも、それじゃあ船の操縦士はぁ…ッ??」

 

ナスカ

「うむぅ!」

 

「ソラが運転……するッ!!」

 

一同

「……………?」

 

「?????」

 

一同はソラに注目した

 

ソラ

「……」

「……………」

 

「………はぁ、私がぁ?」

 

ソラはため息を吐いたが、すぐにアゴに手をかけ思案する

 

ソラ

「そうかっ!」

 

「奪った船に残った操舵と観測のデータから

 航海術を学習すればいいのね…!」

 

「それなら昔、試験運用までやってた

 航空機での瞬間ラーニング法の応用でいけるかも…」

 

「結局、終焉でおじゃんになった研究だけど、

 まさか陽の目を浴びる日がここで来るなんてね」

ソラ

「……いいわよ、たしかに私も運転したい!」

 

メーチュ

「賛同………した…ッ!!!?」



エリオット

「あぁん?

 なら、てめぇらも同罪ってことでいいんだよなぁ?」

 

「オメェら!」

「ヴァイキングにケンカ売ったら、どうなるか教えてやりなぁ!」

 

子分

「合点招致ぃ―――ッ!」

 

子分の数は7人

ヴィキング格闘術らしい構えのままドタドタと襲い掛かってくる

ナスカ

「2人とも、今後もこういう展開あると思うから

 あたしの動き方見といてね」

 

あたしは右手首の螺旋の傷から『運命の歯車』を取り出し、握りしめた

 

歯車は赤色の『生命の理』を歪ませ、

筋量や神経能力を微量だけ強化させていく

 

ナスカ

「まぁ、新しい星じゃこんなもんか」

「それじゃ、いこう」

 

赤目の子分とハゲの子分

「ボケっとしてんじゃあ…ねぇ―————ッ!!」

 

あたしは景気よく一歩を踏みぬいた

 

ゴガッ!!!

 

———そして同時に二撃を叩きこむ

 

ナスカ

「あはっ♪  残数5!」

 

あたしは勢いまま、高く跳躍する

 

子分

「え?」

「なにが起きて———」

 

子分たちは茫然…!

隙だらけ

 

ナスカ

「ほら、構えて——ッ!」

 

あたしは回転速の乗った右足を振り回す

 

 

ナスカ

「はい!ドーン!!」

 

回した右足で圧縮された空気の塊が炸裂

4人の子分たちが一斉に吹き飛んだ

 

子分

「の、のわあああ—————ッッ!!」

「は、速過ぎるってェ―――ッ!?」

 

 

ナスカ

「最後の…トドメ♪」

 

 

 

最後のトドメはハイキック

バシィ!と気持ちの良い音が酒場に鳴り響く

 

戦闘は時間にして5秒

かち上げた子分たちは同時に床に叩きつけられ

カエルのような悲鳴をあげた

 

ナスカ

「ハルバードもいいけど…シュッシュッ♪」

「あたしは格闘術の方が歪みの制御が利いて好みだなっ」

 

「2人とも、参考になった?」

 

ソラメーチュ

「速すぎるよ!?」

 

 

エリオット

「グぅっ…!」

「その謎の力…てめぇらも使うのかよ…!」

 

ナスカ

「………?」

「てめぇら…『も』?」

 

その時、倒した子分たちが元気よく立ち上がる

 

赤い目の3つ目部下

「全然痛くない!?あいつの攻撃ぃ!!」

 

7つ目の眼帯の子分

「おやじぃ!あいつのパンチ、

 見た目より大した事ねぇっすよ!」

 

「この通り、オレらピンピンっ!」

エリオット

「バァカ!よく見てみろ、戦闘前からあの黒髪メガネ、

 本だしておめぇたちを『解析』してやがった…!」

 

「それにぃ折り紙の蝶が赤角に飛んでくのも見えた」

 

赤い目の3つ目部下

「つまり…その解析をもとに、俺たちが痛くねぇ箇所

 殴ってくれたってぇコトかぁ!?」

 

「優し…」

 

エリオット

「―――逆だよ、バカ野郎ゥ!」

「いつでも『急所も潰せるぞ』っちゅぅ脅しだ!」

 

7つ目の眼帯の子分

「ゾゾゾッ!!ひぃいっ!」

子分たちは青ざめた顔で腰を抜かしている

彼らも弱くはないんだろうけど、長いブランクで

すっかり鈍ってるって感じだった

 

ナスカ

「それで船長さんはこれ、奪い返しに来る気はあるの?」

 

エリオット

「たりめぇだ、オメェ」

「てめぇの大事な船の鍵…奪われるヴァイキングがどこにいるってんだ」

 

「ったく、ここぁ良い店なんだ、これを使いたくなかったが…」

 

エリオット船長は右手の義手から光線銃をとりだす

 

エリオット

「――――ッゥ!」

 

が、しかし…それを阻むように大量の悪霊が湧き出し、

船長を舐めるように纏わりついた

 

エリオット

「クソッ…!クソォォォッ!!!」

「離れ……やがれっ!!」

 

悪霊

「シュゥナ…シュゥナ――――――っ!」

 

エリオット

「おぃ!赤角!」

「教えろっ!さっきの……悪霊を払いのけるやり方!」

 

「そのヘンテコなインチキ技でよぉ!!」

「こいつらをぉ黙らせろぉおお―――!」

船長は汗でびちょびちょになり、

狂乱した眼で銃をこちらに向ける

 

ナスカ

「あたしを殺したいのか、助けてほしいのか、どっちなんでぇ」

 

「やれやれ…船長さん?

 悪霊を払いのける仕組み自体はとても簡単だよ」

 

「死を受け入れること…これが肝要」

 

エリオット

「死を受け……入れる……??」

ナスカ

「霊っていうのは、死んだ人の強い心残りなんだよ」

「そして、大方…生への執着と嫉妬、悪霊ってんなら猶更」

 

「死を拒み、生にすがればすがる程、

 むしろ寄ってきちゃうよ~ん、悪霊♪」

 

「短命ゆえ、否応なしに死と向かい合ってる

 …あたしたちバグは、まぁ悪霊にとっても優良物件じゃあないからネ」

「払いのけるのも容易~」

 

メーチュ

「確かにナスカちゃんに近づいたら

 逆に生気吸い返してきそうな感じあるかも…ッ!!」

ソラ

「航海の話の時だけ、悪霊が湧くのも…

 それが船長さんにとって唯一の生き甲斐だから…」

 

「生に嫉妬して霊が寄ってくるわけねぇ

 興味深いナマのデータだわ、面白い…!」

 

ソラは本を手に、ニヤニヤとアーカイブを更新していたが

それが終わると、すぐに興味無さそうに本を畳んだ

 

ソラ

「ナスカ、メーチュ」

 

「船長さんには船の貸し出し人として正式に契約を申し出ましょう」

「航海での成果や名誉は山分けという事で」

 

「…だって彼は…もう……」

「―――航海には出れないわよ、この様子じゃ」

メーチュ

「船長さん…さっき寿命時計を見て、気味悪がってたもんね…ッ」

「きっと…ここに残ってた方がいいの…かなぁ…っ?」

 

「だからナスカちゃん

 ここは一旦鍵を返却してぇ~――――」

 

エリオット

「黙れぇっ!!!ワシはまだ……船に乗れる…ッ!!」

「その鍵を取り返して、また雲海に―――ッ!」

 

悪霊

「ノエアァイ―――ッ!」

 

エリオット

「うぶぅぅうッ!」

 

船長は抵抗の意志こそ見せるけど

もう…満身創痍なのは誰の目にも明らかだった

ハゲで3つ目の子分

「お、おやじぃ…!」

「むむむ無茶すんなってぇ~!」

 

ナスカ

「………」

「…やっぱり航海したいんじゃん!」

 

「なら一緒にしようよ、冒険ッ!」

 

エリオット

「ぬぅあああ―――うぅッ!」

「ボ、ボウ……ケ……ン…ッ!?」

 

メーチュ

「こここここ、この状態で!?」

 

ナスカ

「大丈夫っ」

「エリオット船長なら、今この場所で

 死を覚悟して呪いを祓えるさ」

 

ソラ

「死を覚悟させる…って」

「そんな方法があるの…!?」

 

ナスカ

「ソラが絶望から立ち上がった時と一緒だよ」

「あたしの覚悟を見せる……それで人は変われると思うんだ」

 

ソラ

「!!」

「あ、あなたまた破天荒な方法を―――――」

ゴトンッ!

 

あたしは腰に装備していた

エネルギー・シールド装置を床に落とした

 

エリオット

「な、なにやってん……だぁ、おま…え…!?」

 

そうしてもう一つ

 

ゴトンッ!

 

あたしは『運命の歯車』を床に落とした

 

第4話  風の星ミューブ

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