咳き込み横丁は街の裏路地から降りた先、下層域から入れる
どの星にも言えることだけど
下層域は谷底構造になっていたり、
上層が蓋のようになっていたりと、とにかく暗い
その例に漏れずミューブ下層域も薄暗かったが
強い風が吹き抜けるからか、ジメッとした不快感はあまりなかった
ソラ
「しかし……臭いわね、風が臭いわ」
ナスカ
「そう?この吹き抜けるアブラぎった臭い、わりとクセになる~」
「我が故郷テルミナ下層よりは過ごしやすそうゾっ!」
メーチュ
「あそこは工場区域直下だったもんね…ッ!」
ソラ
「ハァ…そんなことはいいから、ほら
早くいきましょ、体調崩す前にね」
下層トークも程々にあたしたちは
あまりあてにならないマップを頼りに進んだ
下層はどうやら違法増築の繰り返しで
上質な迷宮となっているらしい
マップデータとの差異にソラが軽く発狂するのを宥めながら
あたしたちはなんとか咳き込み横丁に辿り着く
さっきまでの陰鬱な街並みとは打って変わって
横丁は人やお店も活気に溢れ、明るい様相を見せていた
中でも目が奇数個あるトライアングル族が主住民らしい
身なりも合わせてあたしたちは少し目立っている感もあった
ナスカ
「これぞ下層風情!コホッゴホッ!!」
ソラ
「ちょっとスモッグ立ち込め過ぎ…!」
「風通しはどうしたのよ…まったく」
メーチュ
「住めば都ってやつかな」
「人多いし、はぐれない様にね…ッ!」
ソラ
「わかってるわよ」
「あ、でも見てこれ木工細工…船の模型ね」
「この土地の限られた空島での木材の使われ方って
私気になってて―———っ、キャアッ!」
ソラの悲鳴に振り返ると、
どうやら急いでるトライアングル族とぶつかったらしい
急いでるトライアングル族
「おっとわりぃ、急いでたもんで…!」
「嬢ちゃん、ケガねぇか!?」
ソラ
「い、いや…こちらこそ不注意だったわ」
「ケガは…大丈夫、ありがとう」
急いでるトライアングル族
「おぉ、そりゃよかったぁっ!」
「でもわりぃ、オレっち急いでるから、じゃあな!」
ソラ
「ぬぅ…異文化にうつつを抜かしてしまったわね」
メーチュ
「ソ、ソラちゃん…?」
メーチュ
「今…お財布…盗られなかった?」
ソラ
「え!?」
ソラは腰のポーチに手を突っ込み、サァーッと青ざめた
ソラ
「ス……スられたっ!!!あいつぅ!」
ナスカ
「プー、クスクス」
ソラ
「何笑ってるのよ!? こんな状況でぇ~!」
ナスカ
「なにってスり返しておいたんだよ、ほらジャーン♪」
あたしは大げさな仕草でソラとスリ師の財布を出して見せた
ソラ
「え…えぇ……」
「あ、あなた結構キョリ離れてたでしょ…」
「スリ返すってぇ、一体どんな神業よ」
ナスカ
「ふふ~ん♪ こんなの下層域ではちょっとした挨拶っしょ」
「あと、こっちのスリ師の財布も持っておいて」
ナスカ
「あと、こっちのスリ師の財布も持っておいて」
ソラ
「アイツの財布もスったの!?」
「ま、まぁ…いいケド…」
メーチュ
「これでいけるかな、ナスカちゃん?」
ナスカ
「財布の重さ的にたぶんね」
ソラ
「????」
その後ソラに「どういう意味よ!」と詰められながら歩くこと10分、
あたしたちは例の『慟哭のエリオット』がたむろっているという酒場
――「黒い煙モクモク停」に辿り着いた
店の看板には店名の他に大きなマークが描かれてある
三角形に一つ目……つまりトライアングル族の象徴
象徴だけじゃない…店の細長い扉の前には
巨躯のトライアングル族が紫煙をくゆらせていた
おそらくガードマンであろう彼に
ソラはスリ師の財布を渡す
彼は仏頂面のまま財布の中身を確認するが
すぐに表情を崩し、ニヤリとあたしたちを店の中に案内してくれた
ソラ
「だから…! どういう意味なのよぉ…!!」
薄暗い階段を降りながらソラが文句を垂れる
ナスカ
「…下層のお店は場違いな人間を嫌うんだよ」
「身なりも良く意識の高そうな他種族とか特にね」
メーチュ
「――そんなお店に認められて入店するには
やっぱり一味違う…って実力を見せないとだから…ッ」
ソラ
「それがスリ師の財布をスり返すことなの??」
「それで実力を示せるもんかしらねぇ…」
ナスカ & メーチュ
「スられた人がなにか言ってるよ…」
ナスカ
「あはっ♪ 財布の重さを鑑みるにぃ…
あのスリ師、横丁で好き放題やってたんでしょうナ♪」
「さ、着きましたぞ~」
「ついに慟哭のエリオットとごたいめ~ん」
扉を開けると、あたしたちは意外にもオープンなラウンジに出た
シックな茶色を基調にした木造の部屋には
さらに下層の街並みを一望できる大きな窓があり
落ち着きと開放感を両立した空間がそこにはあった
席は40席ほどの小規模な大きさで、
まだ昼だからだろうか、お客さんの数は12,3人ほど
その一番隅っこの席、人が集まってるその中心に『彼』はいた
ナスカ
「やっほ!いい風、吹いてるぅ?」
あたしは人見知りで逡巡するメーチュとソラを横目に
彼の真正面の席に座る
中年っぽいトライアングル族
「……なんだぁ?おめぇさん?」
「なぁ……この店はいつから2つ目を
入れるようになったんダぁ?マスター?」
慟哭のエリオットは中肉中背、白髪単眼のトライアングル族だった
2つ目とはまぁ…トライアングル族以外を指しているんだろう
ナスカ
「なんかねぇ、一つ目のスリ師をスリ返したのを見せたら、ニヤリ…!」
「通してくれたよ、門番の人はあっさりと」
エリオット
「ふぅん、スリってあいつか?…ランドルフのことか?」
「そりゃぁ…さぞ、あっさりか!ハッ!」
「ワシぁエリオットだ」
「ところで、おめぇさん…700隻って何の数字が知ってるか?」
ナスカ
「700…隻?船長さんの乗ってきた船の数とか?」
エリオット
「ざぁんねんっ」
「この銃で沈めた船の数よッ、ダッハッハッハ!」
そういってエリオット船長は右手の義手に仕込んである
大口径の光線銃を見せつけた
ナスカ
「わ~ぉ、噂に違わぬ……アレだ…!
この雲海で幅を利かせてるぅ…『ヴァイキング』?ってヤツだ!」
「ヴァイキング…………」
「………」
3人
「話と違う!?」
ナスカ
「……荒くれ者じゃんねぇ?」
「むしろ面白いかも♪ ソラ、データを」
ソラ
「はぁ……この旅は多難ねぇ…」
「はい、この星のヴァイキング被害のデータ照合。
…船長さんの話、大体合ってるけど、あぁ~…
小型船は数に含めてないのね…」
エリオット
「たりめぇだろぉ!小物なんてものの数じゃねぇよ」
船長は銃をクルクル回して、キャッチ!
あたしの眉間を狙っていた
「――おめぇさん方も数には
ならんだろうがぁ許せよなぁ?その時は」
ナスカ
「あはっ♪ 行儀良くするよ♪」
船長は「そういうことだ」と肩をすくめ
またクルクルと銃を回し義手のソケットにはめ込んだ
エリオット
「―――おめぇら……なんか見たことあるな」
5つ目のトライアングル
「おやじ!きっと…あいつらだ…!」
「テルミナで大解析をやってのけた…!」
エリオット
「あぁ…?あぁ……あぁ~………ぅ…」
「たしか…に……あのアホみたいなドレス
…とメガネはそうかもなぁ…」
エリオット船長はソラの顔と
店内にある新聞の写真とを見比べている
異種族の顔は分かりづらいのはお互い様らしい…!
ナスカ
「あの眼鏡の子こそ、一つ目で覚えやすいんじゃない?
黒髪のソラに…隣の緑の子がメーチュ
そしてあたしがナスカ」
エリオット
「ふぅん、ま、よくここまで無事に来なすった」
「忘れるまでは覚えておいてやるヨ…」
老船長はあんまり興味無さそうにジョッキを傾けた
この佇まい…ウチの酒場にもいた引退冒険者を思い出す
そういえば…昔1人だけミューブ出身の冒険者が飲みに来てたっけ?
ナスカ
「あたし、テルミナ下層酒場の娘なんだけどさ」
「そこに通ってた3つ腕のピサロって知り合い?」
エリオット
「ほぉ!3つ腕の!」
「懐かしい名前をだしてくれるじゃねぇか!」
船長は嬉しそうに話に身を乗り出す
エリオット
「あいつはなぁ…ホラ話ばっかりだったろぉ!?
口だけは上手ぇんだ」
ナスカ
「えぇ!?ホラぁ!?」
「7つ目のドラゴンの話とか…あれもぉ!?」
エリオット
「バーーーッハッハッハッハッハ!」
「そんなのアイツのホラの十八番でよぉ!」
「ま、美味ぇ酒の知識だけは一級品なんだがなぁ」
ナスカ
「あはっ、出た!淑女の涙でしょ」
「自前の瓶を持って来て、パパに自慢してたっ」
「…後でこっそり香りだけ嗅がせてもらったけど
…確かに本物だったね、ありゃ」
エリオット
「お?お前さんも飲める口かぁ…?」
ナスカ
「残念、まだ大人じゃないから」
「それにあたしはエイト・バレッツ・サイダーのファンやけん」
エリオット
「あぁ、わかるぜぇ…!
ありゃ酔わねぇ飲み物で唯一、アガる代物だよなぁ!」
ナスカ
「わかってんじゃ~ん、せんちょ~!」
「よっし、マスター!あたしたちにも…クイッ♪
サイダーをいただける~?」
エリオット
「オイオイ、2つ目のクセに面白ぇじゃねえか!
「物怖じしねぇ、その肝っ玉に乾杯だな
おめぇさん才能あるぜぇ?ヴァイキングのな!」
ナスカ
「お、『目』の付け所が違いますなぁ、船長さ~ん」
ナスカ&エリオット
「だっはっはっはっは♪」
ソラ
「一瞬で仲良くなった…っ!?」
「う、腕なんか絡めて一気飲みしてる…!」
メーチュ
「あれが酒場娘の処世術…ッ!!」
「こういう時、お喋りな人ってホント頼りになるよね…ッ!」
それからあたしたちは薦められた
名物料理の雲海カモメのサワガニ詰めをつつきながら
冒険者トークに花を開かせた
そして船員のトライアングルたちと最後のサワガニを巡る
仁義なきジャンケン大会が決したころ、その話題が訪れる