第1話 花と冒険者

パートF

 

明朝、街のホテルから出ると、

涼しく爽やかな香りの風に吹かれた

 

振り返って宿の看板を見ると名前が「元砂漠ホテル」に変わっていた

宿の主が昨晩酔っぱらったままのテンションで修正したんだろう

「元」の字がグニャグニャと曲がっている

 

ナスカ

「あはっ♪ 踊ってるみたいな字だね」

―――あれから、

聖樹枝を無事に持ち帰ったマンジュサ様は

その場で王都を緑化した

 

その力は街を中心に広がり、地面からは草木が生い茂げ、

砂漠地域っぽい日干しレンガの家も青々とした新緑の家に変貌した

 

もちろん綺麗な花も爛々と咲き乱れ、

街の至る所に鮮やかな花園を作り上げた

悪しき花によって銀河に広がっていた奇病も

後遺症もほとんどなく消え去ったらしい

 

あたしの仲間の紳士君も無事、立ち直ったと報告があった

朝陽が街を染めていく

砂気のない朝に喜ぶように蕾が花を開かせた

 

ナスカ

「さて、と」

 

あたしは大きく伸びをし、

街のモービル屋に向かう

 

そこから宇宙港へ行って、この星とはお別れだ

しかし、モービル屋に着いたあたしは違和感を感じた

 

ナスカ

「またか…」

「ドアが壊れとぉ…」

 

ドアが壊された店内には彼女がいた

 

マンジュサ

「やっほー、ナスカ」

 

ナスカ

「なんでマンジュサ様がここにぃ??」

マンジュサ

「そりゃあ、そそくさと帰っちゃう、

 あわてんぼうの英雄様を見送るためっしょ~」

 

「薄情じゃん?」

 

「ってぇ、言いたいところだけどバグだもんね」

「長居はナンセンスなんでしょ」

 

ナスカ

「わかっているじゃん♪」

「そう、昨晩の内に次の冒険地が決まったんだよね」

ナスカ

「次は時の惑星アンバースだよ、わぉ♪」

「居てもたってもいられないワケでさぁ」

 

マンジュサ

「めっちゃイケてそうな名前の星じゃんっ☆」

 

マンジュサ様は肩をすくめて笑った

そうしてあたしたちはモービルに乗り込み王都を出立した

 

王都の外の環境も当然一変していた

 

一面砂原だったのが花々揺れる草原に生まれ変わり

水平線の果てまでずっと続いていた

 

その中をあたしたちは、砂漠用のモービルでノロノロと走行していた

ジェット噴射は花に悪いかもしれないと、出力が抑えられているらしい

 

ナスカ

「あはっ♪ これじゃ砂蟲からは逃げられないゾ~?」

 

運転手のおじさん

「あぁん?この車をバカにしてんのかぁ?」

「ったく…まさかまたアンタを送ることになるとは…!」

 

「しかも王女殿下までご一緒で…!」

 

マンジュサ

「ニャハっ♪レアな経験じゃん」

「目に耳に焼き付けて、のちの美談とするが良い~」

 

「ゼッタイ後世に伝えるべき光景よ、きっと」

 

おじさんは王女の言葉に恐縮した

運転手のおじさん

「それにしても、お前さんすっげぇ力を使ったっていうじゃないの?」

「幻術を見破ったり、大きな怪物と戦ったりさぁ、謎の力だって!」

 

「同行したっていう冒険者が宴会で熱弁をふるってたぞ」

 

マンジュサ

「マジよマジ!それはもう人知を超越した…バカ強な力だったし!」

 

運転手のおじさん

「おぉ、それほどまでの力…!その場で見てみたかったぜぇ…!」

 

ナスカ

「まぁ無闇矢鱈に使うべきではないんだけどねぇ

 

マンジュサ様は頬杖をついて原っぱを見ていたが

神妙な面持ちでこっちに向き直した

マンジュサ

「ウチも先の冒険でマジ学んだよ」

 

「たとえ綺麗な花でも、その中にはヒドく醜い悪意で満たされている」

「――な~んてことも、あるってことを…ね?」

 

「ナスカのその…神秘的な力

 それにも、きっと目を背けたくなるような側面があるんじゃない?」

 

ナスカ

「………」

 

マンジュサ

「こっちは世話になった星の代表なんだから、聞かせてよ」

 

「その力の代償はなに?」

運転手のおじさん

「お前…!そんな、重い代償を…払ったのか…!?

 星を1個救う程の代償って…!!」

 

ナスカ

「………」

 

「…30分だよ」

 

マンジュサ

「30分…?」

 

ナスカ

「『寿命』の30分」

 

「この星を救うために消費した寿命の総計」

「あの歪みの力は『自身の寿命を削る』から…」

あたしの返答に2人は一瞬固まったが、

おじさんはすぐに拍子抜けしたように笑った

 

運転手のおじさん

「な、なぁんだ!30分ってお前…!」

「銀河ドラマ1話分じゃねえか…ははは!」

 

「それで星1つ救えるって…

 この砂漠用ビークルより数万倍燃費いいじゃねぇかっ」

 

おじさんはビークルをコツコツ叩いて笑ったが

マンジュサ様はそれを制した

マンジュサ

「バカ言うなしっ!」

 

運転手のおじさん

「ひっ…!」

「えと…スミマセン…!」

 

マンジュサ

「あのアクタルテンとの戦い…」

「実際のところナスカが敵を圧倒してたでしょ?」

 

「そんな余裕の戦いですら、30分も消費したんじゃん!?」

 

「じゃあこの先…」

「もっとヤバイ敵とか困難が立ち塞がった時、

 あんたはどれ程の寿命を消費しなくちゃいけないってワケ!?」

ナスカ

「さぁ…?でも払うべき代償なら払うさ」

 

マンジュサ

「あんたの夢は全てのスターメモリーを見つけることなんでしょ?」

「そんな前人未到…困難だらけの道、払うべき代償だらけじゃん…!」

 

「マジ許せない…ッ!ナスカっ!」

 

ナスカ

「ゆ、許せない…っ!?」

「い、いいでしょ~っ!」

 

「冒険者はいつもキケンと隣り合わせってもんでぇ―――」

 

マンジュサ

「これを! ―――ッ、受け取んなさい」

 

マンジュサ様は立てかけていた聖樹の長杖を一振りして

小さな花飾りを生みだした

螺旋の傷に触らずともわかる

相当量の赤色の歪み…『生命』の力がにじみ出ていた

 

マンジュサ

「聖樹の枝の力の半分を秘めた」

 

そういってマンジュサ様は、あたしの角にその花を飾り付けた

 

ナスカ&おじさん

「半分ンンッ……!?」

 

ナスカ

「半分て…ええええっ!?」

 

運転手のおじさん

「殿下…!それってヒガンの発展に必要なものじゃ…!?」

 

あたしは突然、角に重要遺物の欠片をくっ付かせられて

扱いに困り、ドタドタ慌てふためいた!

マンジュサ

「大丈夫じゃん?この星ちいちゃいし、十分だよコレで」

 

「それに小さめで主張が控え目に作ったから、

 コーディネートの邪魔になることもないっしょ?」

 

ナスカ

「いやいやいや、ファッションの問題より!もっと!

 あるでしょうう~…!!!」

 

「あぁ~~~~」

「このお転婆王女に説いてもムダかぁ~~~……!!」

マンジュサ

「いいんだよこれで」

 

「ナスカなら、その夢の旅の先々で

 また困っている人々に手を差し伸べるんでしょ?」

 

「世界中の不幸の運命を覆していくってんなら…」

 

「ウチにもその代償を払わしてよッ☆」

 

マンジュサ様は笑顔であたしの手を握る

ナスカ

「…ありがとう、マンジュサ様…!」

 

「その覚悟に…つよい絆を感じるよ」

「これって運命共同体みたいなもん?へへへ」

 

あたしはその手を強く握り返した

 

そして間もなく、宇宙港に到着してしまい

あたしはビークルを降りた

 

ナスカ

「…あたし、必ずスターメモリーを見つけるさ」

「最後まで見守っててね」

 

マンジュサ

「ニャハッ☆分かってるって!」

「どうか元気でね!」

 

運転手のおじさん

「ありがとう!冒険者!」

「お前の伝説…ずっと語り継いでいくからな!」

 

あたしは頷いた

ナスカ

「あはっ、いいね♪」

「次来たときは女の子に大モテだ」

 

「みんなお元気で!」

 

あたしは宇宙港へ歩き出す

2人は見えなくなるまでずっと、手を振ってくれた

道には桜の花が舞っている

 

そのピンクの花びらは、小さく儚げだったけど

 

柔らかな風に乗ってどこまでも、高く飛んで行った

 

1つの旅を終え

惑星テルミナ行きの民間宇宙船

 

つまり拠点に帰る便

 

 

ナスカ

「あー…もしもし?」

「これ、聞こえてる?メーチュ?あはっ?」

 

 

あたしはヒガン宇宙港で買った、

元砂漠チップスを頬張りながら

暗号化通信で旅の報告をしていた

メーチュ

「え、えぇ!?ナスカちゃん…!」

「大丈夫だったの、予定より30分遅れてたけど!?」

 

あたしの冒険者ギルドの総合管理担当のメーチュは

小動物のような可愛らしい声で慌てふためいている

 

ナスカ

「いやぁ、植物の種って星の外に持ち出すの

 かなり厳しいじゃない?」

「その検査、慣れてなくってさぁ?ここの検査員」

 

メーチュ

「あぁ~…昨日まで砂漠の星だったんだもんね…」

「それで遅れちゃったんだ…事故じゃなくてよかったぁ」

ナスカ

「まぁまぁまぁ、ハッピーエンドの功罪ですなッ」

「そ・れ・よ・り・も! 聖樹の枝だよ聖樹枝!」

 

ナスカ

「マンジュサ様が、力の半分、貸してくれた」

 

メーチュ

「え、えぇえええ―――ッ!?」

「すごいね…!なんと大胆な王女様…!」

 

ナスカ

「これはスターメモリーの探索の助けになるよ~!」

 

メーチュ

「うんうん、これでまた目標に一歩前進、だよね…ッ!」

 

ナスカ

「そういうこと♪」

あたしは手首の傷をなぞった

 

ナスカ

「マンジュサ様も驚くだろうなぁ~」

 

「スターメモリーを全て発見してさ、あたしが夢を叶えたら」

ナスカ

「あたしが―――『不死』を、手にしていたら…!」

 

あたしの夢は

誰よりも輝かしい冒険をすること

 

死ぬなんて、つまらない

 

早世の宿命を超越し

終わりのない冒険を、あたしは夢見てる

第1話  花と冒険者

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