テルミナ 冒険者ホテル
時の星アンバースから生還したソラは
各星際機関の要所である惑星テルミナに移された
あたしとメーチュはそんな身寄りの無いソラの
世話役として同行することとなった
ソラ
「これは…新しい服?」
ナスカ
「そう!」
「1万年前の終焉、そこから生き残った初代アーキビスト!」
「惑星アンバースで一万年前の貴重なデータを
持ち帰った伝説の少女なんだから…身なりもビシッとね!」
ナスカ
「そんなスマートでミステリアスな生い立ちが
引き立つ召し物をご用意しました…!!」
ソラ
「成程、確かにこれからたくさんの
人と協力していくことになるし印象は大事…か」
「胸をこんなに出すのはなんの意図があるの?」
ナスカ
「コチラ、胸の内を明かしますよ
という潔さを表現しています」
ソラ
「へぇ未来のファッションも興味深いわね」
メーチュ
「いやいや、ただのナスカちゃんの趣味でしょ…ッ!」
ナスカ
「それでソラはこれからどうするつもりなの?
アンバースを救うために動くんでしょ」
ソラ
「えぇ、この銀河に7つある大スターメモリーを探しだして
あの終焉を鎮めないといけない」
「実際には『時間』『生命』『熱光』の
大スターメモリーは既に見つかっているから
残りの『空間』『法則』『物質』『心』の
4つを見つければいいわ」
「そのためにも…」
ソラ
「私はナスカの冒険者ギルドに加わることにしたわ!」
ナスカ
「え…」
ソラ
「私に失敗は許されていないの」
「冒険するのなら銀河一の冒険者とするべきだわ」
「…つまり、あなたたちのことよ」
メーチュ
「銀河一…って星の数ほどあるギルドの中から私たちを…?」
「ソラちゃんほど優秀なアーキビストなら
選択肢は他にもあるんじゃないかな…」
ソラ
「もちろん『全て』のギルドを見比べた上での判断よ」
「母星の命運がかかっているし、熟考もしたわ」
メーチュ
「さ、さすが情報のプロ…ッ!」
ソラ
「どうかしら?仲間に加えたら必ず力になるわ、私」
ナスカ
「……う~ん…」
「たしかにぃ…あたしたちも不死を得るために
大スターメモリーを探してるしねぇ
目的はなんと…一緒だ!」
ソラ
「えぇ…!だったら―――」
ナスカ
「でも、お断りだよ」
「他のお仲間を探しなさいっ」
ソラ
「え」
ナスカ
「バグ以外お断りなんだ、ウチのギルド
アンバースで見たでしょ、あたしの壊れた姿」
そういってあたしたちは螺旋の傷を開き
中から非物質的な歯車を取り出した
歯車は神秘的な光を放ち、あたりを照らした
ソラ
「それはアンバースでも見た…歯車!」
ナスカ
「これは世界の理の欠片…『運命の歯車』って呼んでる」
ナスカ
「この歯車のおかげでバグは”超自然な存在”であって…」
「同時に、世界にとっての”不自然な不具合”ともいえるんだね」
「不具合は修正される運命でさ…時間がないんだよ、バグには」
「いつだって強行突破、まったくやれやれでぇ…」
メーチュ
「ソラちゃんには時間があるから…」
「永く生き延びて、悲願を達成してね」
ソラ
「そ、そう…」
「それは……残念だけど…理解はしたわ」
ソラは少し戸惑っていたけどすぐに考察モードに入った
「ふむぅ…螺旋の傷を携える短命のバグ…そして運命の歯車…か」
メーチュ
「きゅ、急にどうしました!?」
ソラ
「いや終焉以前にはなかったデータだから
もっとよくバグの事知らないとなって」
そういってソラは前髪に隠れた左目あたりに手を当て
「理の歪み、ねぇ…」とブツブツ呟いていた
ナスカ
「まぁまぁ!」
「とにかく仲間にはできないけどさ」
「ソラが優秀な情報官なのは確かなこと!
全研究機関がほっとく訳がないよ!」
ナスカ
「お~ぅ、そうだ!」
「今日、アンバース探査と終焉のデータに
ついての報告に行くからさ、そのついでにソラを雇ってもらおうよ!」
ソラ
「それはいいわね」
「ふふ、まさか1万年後の世界で就職活動するとは…」
あたしたちは冒険者ホテルを出て
テルミナにある『星律教会』支部局へと向かった
『星律教会』とは世界の歪みを正すために発足された星際機関
『冒険者協会』が銀河の開拓を担当する一方
星律教会は研究と教育、そして立法の中核を担っている
つまり歪んだ世界の中で、人々を清く正しく導く機関である
ランダカン支部長
「20万キーン」
ソラ
「…急に何よ」
冒険の報告を済まし、雇用について聞いての一言目だった
星律教会の情報管理部、テルミナ支部長…
つまりこの星のアーキビストたちのトップであるランダカンは
気怠そうに言い放った
ランダカン支部長
「貴様の年収の話ヨ、ね・ん・しゅ・う!」
「一年分のお給料は20万キーンてェこと!」
ソラ
「に、20万キーン……?」
ナスカ
「20万キーンってどれぐらいだっけ?」
メーチュ
「大学新卒年収の半分…ッ!」
ナスカ
「おぉっと、これは…!」
メーチュ
「ブラック…ッゥ!」
ソラ
「1万年前、光の星でアーキビストの基礎理論を築いたのはこの私よ
人の恩恵にあずかっておきながらそれはないんじゃないかしら?」
ランダカン支部長
「いやいやぁ?逆になにが初代アーキビストだってンだよ
一万年前の型落ち、つ・ま・り老害っしょ~?」
「技術は日進月歩、実力主義の日々でぇ…雇ってくれるだけマシなの!」
ナスカ
「ちょっとちょっとストップ~!
あたしたちアンバースの探査で結構有意義な報告したんじゃん!」
「どれもこれもソラのお陰だよ!?ソラの実力の何をしってるのさ!」
ランダカン支部長
「逆にぃアンタらアーキビストの何をしってるのさァ~?」
「さっきアンタの情報処理能力を測ったけどサぁ、わりとフツーなのね」
「ちょっとだけ優秀ってぐらいィ?精々、末端」
ナスカ
「え、えぇ~…マジ?」
反論する材料もなくあたしはソラの方をみた
ソラは少し考えた後、冷静を装いながら口を開く
ソラ
「…ま、まぁこの際年収はいいわ、雇ってもらえるなら」
「問題は個人研究の権限よ」
「アーキビストだったら自由に銀河中の研究文書に
触れられたり調査隊を組めたりと聞いたわ」
「アンバースを救うための研究ができれば私、やるわ!」
ランダカン支部長
「5000万キーン」
ソラ
「……………今度は何よ…」
ランダカンダ支部長
「貴様を救出する為に使われた金ヨ」
「つまり借金ってわけ、貴様の~」
ソラ
「は、はぁあ…!?」
ランダカン支部長
「借金してるヤツに権限あると思うかァ~?」
「ないないィ!時の星アンバースを救う使命だっけ?」
「返してから言うが頼むヨ!」
ソラ
「ふ、ふざけてる…!」
ナスカ
「ちなみに5000万キーンってどれぐらい?」
メーチュ
「サラリーマンの生涯年収(女性)ぐらい!」
ナスカ
「よし、今からサラリーマンの女性ナンパしてこよう」
メーチュ
「借金のあてには厳しいよ…倫理的に」
ランダカン支部長
「ほらおら!貴様らもいつまでそこに居んのサ
こっちは件のデータ解析で忙しーの
ほれ、とっとと仕事場に行け、ゲッラ!」
メーチュ
「アンバース探査はランダカン支部長の主導…
ソラちゃんの処遇については何も言えないよぉ…」
ソラ
「はぁ……一旦引き下がるしかないわね」
「低賃金……借金……ハァ…」
そういってソラはまたブツブツと何かいいながら歩き始める
ただ思ったより落胆はないらしい
ソラ
「…まぁ、とにかく職場に向かうわよ
場所は……『折り紙図書館』?だって、変な名前ね」
終焉の際の傷が痛むのか、それとも癖なのか…
ソラは左目あたりを触りながら思考を巡らせているようだった
星律教会 情報管理部 折り紙図書館
図書館に入って飛び込んできたのはたくさんの折り紙だった
どうやら本棚の間を走り回るアーキビストたちが
その手でセコセコと生み出しているらしい
ナスカ
「おぉ~!これが噂の折り紙かぁ!
1万とか10万とかの数,飛んでんね~」
ソラ
「えぇ~…と…ここは情報整理の場なのよね…?
なんで折り紙飛ばして遊んでるのよ…!」
メーチュ
「これって1万年前には無かったのソラちゃん?」
ソラ
「当時の研究所ではブツブツ計算式の独り言しか飛び交わなかったわ」
ナスカ
「わぉ!うまいことを言う♪
ほら1個頂戴してきたよ折り紙」
ソラは折り紙を受け取ると訝し気に開く
するとその瞬間!
ホログラム音声
「やれ!やれ!殺せーッ!」
突如として鋼鉄の闘技場のホログラムが現れ
耳をつんざく歓声が起こった
橙色に彩られた舞台には鋼鉄の猛獣と剣闘士のホログラムが対峙し
今まさにあたしたちの目の前でリアルすぎる死闘が繰り広げられていた
メーチュ
「ヒィイイッ!こわいぃ!助けてェ!」
ソラ
「な、な、なによこれぇ!」
ナスカ
「なにって圧縮データだよ!
映像音声や温度気候、その他数値データが
折り紙状にまとめられてるんだよ」
ホログラム音声
「ホガガガガァオオオ!!」
メーチュ
「ナ、ナスカちゃん後ろー!?アブナイっ!」
ホログラムの鋼鉄猛獣は
あたしの方に向かって突進を繰り出す
が、しかしその虚像は空しくすり抜け
今度はソラの方にドドドド~っと突っ込んでいく
ソラ
「ぬぬうぅ―――ッ!」
まさに衝撃!乙女の危機!
…と思いきや、ソラが失神する直前に
虚像たちはあっけなく元の折り紙形状に圧縮され
ポトリとソラの手の中に落っこちた
レオンド
「うっせ――んだよォ、お前ら!
図書館でなぁに騒いでンだっ!?」
後ろを向くとアンバース探査で一緒だった小柄なレオンドと
ふくよかなピリーカが2人して立っていた
どうやら手元の本型の装置でこの折り紙を制御してくれたらしい
ナスカ
「レオンド!それにピリーカも!」
ピリーカ
「わぁ~皆様ぁ~お待ちしておりました~」
「まさか推し冒険者が職場に来てくれるなんてぇ~♡」
ソラ
「職場って…まさか同僚ってことなの?」
レオンド
「あんたの研修係だよ。ったく初日から騒ぎやがって
面倒見てやるから、あんま勝手するなよ」
ナスカ
「あたしは騒いでないよ♪」
レオンド
「黙らっしゃい!お前は部外者らしくしてろぉ!」
思わぬ再会にあたしたちは喜び合った
それはソラの勤め先として安心したって話だけじゃない…
―――あたしたちの『強行突破』の手間が一つ省けたからでもあった