襲撃の間にミューブでの初めての夜
他の星とは違い雲海の底の方から
夕日の光が漏れいでているのがロマンティックだ
あの後マイステッチの社長さんは
工場を案じ現場へと戻ったらしい
社長とセリザアが調査を進める間
あたしたちは一旦体制を立て直すことにする
メーチュの粋な計らいか
そのカートゥーン酒場へ到着する頃には
すでにたくさんの料理が並べられていた
美味しそうな光景に感嘆を漏らすと
傷ついたぬいぐるみたちを補修している
ベルちゃんがこちらに気付いた
ベルベリー
「みんな…! 無事でなにより…」
ナスカ
「ただいま~♪ いや~、ヒリついたね~
事件の謎がただただ増えただけだったけど…」
ソラ
「……!」
「先輩もちゃんと……居る…!」
ラオニティス先輩
「メンドーごとが膨らむと、もっとメンドーだからな」
「さっさと解析しといてやるから、
食べる前に『運命の歯車』わたせ」
先輩は『理の歪み』関連の医療に詳しい
オモテ社会では見られない奇病だって診療できるはず
あたしたちは螺旋の傷を開き、
運命の歯車を取り出す……が、しかし
ナスカ
「ね……ヌメヌメ、ネトネトォ!」
運命の歯車は粘液に包まれ、
不明瞭に形を揺らしていた
―――明らかに異常事態…!
ソラ
「うげぇ…!髪にベットリ…さ、最悪ね…っ!」
メーチュ
「未曾有な現象なので…ラオ先輩だよりになります…ッ!」
あたしたちがぺこりとお辞儀をすると、
先輩は一瞬だけしかめっ面をし、すぐに解析に取り掛かる
メーチュ
「さてッ! じゃあわたしたちは~……お手々を洗おう…!」
「ご飯が冷めちゃう…ッ!」
ソラ
「…はぁ、こんな時にご飯なんて大丈夫かしら」
「事件解決も道半ば、敵の奇襲の可能性だって……」
トール・デトール
「心配無用!…でありますな、我々のテクノロジー!
周囲に偵察ロボを飛ばしておりますし
ベル殿のぬいぐるみ警備隊も警戒中!」
ナスカ
「せっかくの隙間時間! むしろこのタイミングしかない」
「今は大いに喰らおうぞ~♪」
そしてあたしたちは手を洗った後、
思い思いに食べ物を取っていく
ナスカ
「う~ん♡香り立つ雲海魚焼き~♪
麦クッキーの香ばしさとマッチしますな~」
ベルベリー
「ジャムにつければお菓子の代わり…
ハムハム……ここのリンゴジャムはなかなか良い……」
ソラ
「このフルーツパイ見事な味ね! しっかり果物の甘みというか…
そういえば大陸の方で果樹栽培していると記録で見かけたわね」
メーチュ
「これだけの人口を支える雲海農業ってどんなんだろう…ッ
食料事情とかもっと調べておきたいね…」
「トールちゃん、魚のスープおいしい?
サラダとってあげるッ!」
トール・デトール
「の、飲みすぎた!…でありますな、美味しい悲鳴!」
デル・デトール
「まだふわふわメレンゲのデザートもあるのに、兄ちゃ~ん」
冒険の醍醐味
ご飯の時間は幸せだ…!
ある程度、英気を養って
あたしたちはぼちぼち真面目な話題に移っていく
ラオニティス先輩
「で、『バース』がうまく使えない問題についてだけどよ
どうやら『心のスターメモリー』が生む
強力な歪みが原因のようだぜ」
ナスカ
「バースは歪みを制御する力…
そりゃあ、歪みの源である
スターメモリーの影響は受けるかあ」
そういって、あたしたちは先輩から歯車を返してもらう
ソラ
「でもそんなに強い歪みなら
皆が違和感を感じでも、おかしくないんじゃないかしら」
ラオニティス先輩
「歪みを感じること自体もバースの力だからな
違和感すら感じられなかったんだろ、ダルぃ話だぜ全く」
「――ただ朗報もある
ベル見せてやってくれ」
ベルベリー
「わかりました………んッ」
先輩に言われると、
ベルちゃんは右手の螺旋の傷から
青くきれいに光る『運命の歯車』を取り出す
ナスカ
「おぉ~♪ 一般人のバグで
運命の歯車を取り出せるなんて…!やるね!」
デル・デトール
「それに歯車、ボクたちのみたいに乱れてな~い!」
ラオニティス先輩
「もう戻していいぞ、ベル」
「――そう、スターメモリーの強い歪み下でも
歯車を安定させることは可能だ」
「というか…不安定な歯車を制御する現象
お前らは最近見てるはずなんだよ」
先輩はソラの方を見る
ソラ
「わ、私の話!?」
ナスカ
「――ソラが覚醒した時だね、テルミナでの話
確かにソラも初めて歯車出したとき、ノイズだらけだった!」
ソラ
「私はどうやってあれを安定化させた……?」
「………」
「強い意志…ね」
「時の星の運命を覆さんとする強力な意志で
この歪みを従わせたことを鮮明に記憶しているわ」
ラオニティス先輩
「そうだ、強い意志
この星の歪みについても同様」
「早くこの星で歪みをコントロールできるようになれよな
そうでなきゃ心のスターメモリーなんて夢のまた夢の話だぜ」
ナスカ
「あはっ♪ ま、なんとかなりそうって感じだね~♪」
ソラ
「ポジティブねぇ…あなたは」
ナスカ
「だってそれこそアンバースでアクタルテンと戦った時も―――
ってぇ、長くなりそうだから割&愛」
「事件の本題に入りましょッ、真犯人の話!」
あたしは依頼主ベルちゃんの方を見る
ベルベリー
「ぬいぐるみ殺人事件の犯人…
ってやっぱりマイステッチ社なの?」
メーチュ
「証拠だけを見てるとそうだね…
『他社への営業妨害』って感じッ」
「だけど社長さんのリアクションを見ると、違和感もあるッ」
ソラ
「えぇ、あの社長パワハラ体質な男に見えるけど
この件に関しては、被害者って感じよね」
ナスカ
「調査協力もしてくれてるし、犯人候補からは外そう」
「あたしとしてはねぇ、なんか…この事件
犯人の『大いなる狙い』みたいなのを感じるんだよね」
ナスカ
「だってさ、あの突然現れた謎の警備オモチャ…
おバカじゃない? 目立ち過ぎだって、あの図体」
「すぐ足付いちゃうよ、大胆が過ぎる…」
メーチュ
「…それだけ犯人が隠ぺいに必死だったってことだよねッ
つまりそこには大いなる狙い…ッ!」
「ぬいぐるみ殺人の真の目的…ッ!」
ベルベリー
「………目的」
「ひとつ、あるかも」
そういってベルちゃんは、
先の奇襲でやられた警備隊ぬいぐるみと、
事件で『殺害』された被害者ぬいぐるみを取り出した
ベルベリー
「どっちも補修済み…だけど」
「『殺された』被害者ぬいぐるみの方はピクリも動かない…」
ソラ
「警備隊の方は痛みを感じてはいそうだけど…動いてる…!」
ベルベリー
「違いは…心を宿す『繭』の糸があるかないか…」
「被害者ぬいぐるみは
それが盗まれているんだよ…!」
ナスカ
「うん、犯人の真の目的は『繭』の糸で決まり!
『他社への営業妨害』はフェイクっぽいね」
「――更なる疑問は
じゃあその糸で結局なにすんのかってハナシ」
「心のもとゲットしてなにすんのって」
メーチュ
「今までにそのヒント、あったかなぁ…ッ??」
トール・デトール
「チンプンカンプン!…でありますな、迷宮!」
その時、通信装置ごしにセリザアも話に加わってくる
セリザア
「先輩がた~、ちすちす~♪
『繭』の話、名推理っすねぇ~!」
ベルベリー
「突然のホログラム、ビビる」
セリザア
「うひぃ、失敬失敬w」
「―――それで調査報告なんですケド…
正直、解決まで導くようなダイレクトな成果は無いッスね」
「監視カメラも悪者ぬいたちによって破壊されてたし
『繭』のモヤモヤの追跡も無理そうでした
「マイステッチ社の管理の杜撰さが
ちょっとアレ過ぎて何も追えんッ」
全員
「………うわぁ」
セリザア
「現状、確定して言えることは
『繭』にあったあのモヤモヤが
ぬいぐるみを悪者に変えていたってこと」
「そいでその『繭』の異常は2年前
工場ライン改修のタイミングで仕込まれたらしいってこと」
「ぐらいかな」
ナスカ
「うむ! ご苦労!」
「会社が杜撰っていう立派な証拠は揃ったねネ」
ナスカ
「じゃ、この件はトイメッカの
ホビー産業の信用危機という事で
じゃんじゃん周りを巻き込んでいっちゃおっか♪」
セリザア
「やったぁ♪ ある事ない事、誇大解釈偏向報道!
大義名分のもと、冒険者や警備隊の危機感を煽ってきます!」
「ニュースの見出しはこう!
『老舗ぬいメーカー、トイメッカの転覆を謀る!』」
ベルベリー
「盛り過ぎ…ヤバいコイツ…!!」
メーチュ
「な、ない事は報道しないでね~………ッ」
ナスカ
「あー…あと、セリザア! あの謎の警備オモチャ!」
「社長さんは見たことない型と言い
それに…途中触手みたいなのも出してきた」
「あいつからの犯人へのアプローチも引き続き頼むよ!」
セリザア
「ほいほい、そっちも追跡中ッスよ!
何かわかったら、すぐ言いま~す」
「……」
セリザア
「あぁー、そういえば…バース使えなくなったり
繭のモヤモヤ消えたりで忘れてたッスけど…」
「あのあと、警備オモチャどうしたんでしたっけww
曰く、工場に残骸とかはなかったらしいですけどwww」
ソラ
「あぁ、あれね」
ソラは亜空間ポケットから
満足気に100cmぐらいの肉塊を取り出した
ソラ
「解析力のリハビリにもなるし、なにより興味深い代物だから」
「ではさっそく、ムニムニと…」
「肉厚な心臓みたいな器官…周りの内臓も一体化してる
ホント面白い! 明らかに人の手が入った肉体構造なのに
自然適応の可能性を示す痕跡もあって―――」
「ぬぬぬ! コイツ!」
ソラ
「トドメを刺しきれなかったのかしら!
急に細かくビクビクしだしたわっ!キャッキャッ!」
「変な音も発しているし――――」
「………」
「……」
「って…あれ、みんな…?」
ソラ
「………」
「は?」
あたしたちはソラを置き去りに走り出す
そして近づいてくるのは鈍い風切り音
彼女は音の方を振り返る
謎の飛行生物
ソラ
ソラがよだれを垂らして持ち去った肉塊は
救難信号が発していたらしい
信号に寄せられて
また新しい謎の生物が襲来する!