雲海の上層も上層
つまり『心のスターメモリー』を探す冒険のほんの序章
あたしたちは星都アプ・ストリームを出立して
ものの2~3分で悪天候に見舞われることになった
ソラ
「まさか鯨型アクタルテンの船で旅をすることになるとはねぇ」
強風がビシンビシンッ!とラウンジの窓を叩くのを見ながらソラが呟く
あたし達はメーチュの入れてくれたコーヒーを啜りながら頷いた
ナスカ
「鯨といえば最強の海中生物の一角!まさに頑強!
雲海の嵐なんて目じゃないよ!」
ヴァイキングのイメージからは想像もつかないが
船のラウンジ内は木造調の温かみのある空間だった
あたしたちは、まさしく大船に乗った心地でソファに体を沈めた
――と思った次の瞬間!
大きな音が発せられたかと思うと
ソファやテーブル…家具の全部が壁に叩きつけられた
そして船内は洗濯機よろしく、グルングルンと回転を始める
メーチュ
「わわぁぁぁぁ―――ッ!?」
ナスカ
「かかか、回転してる――!?」
ソラ
「【鯨】が回ってるのよ!!ちょ…大船とは一体…!?」
その時、扉が開きエリオット船長が激昂を飛ばす
エリオット船長
「なぁに優雅にティータイムしてンだ、おめえら!」
「外出て働け!雲海をなめんなよ!?」
ソラ
「お、お外!!?」
回る船内から辛うじて出ると、
狂乱めいた風が激しく出迎えてくれる
視界もすこぶる悪い中、
船員たちは右往左往と吹き飛ばされながら
船の修繕をしていた
ナスカ
「あはっ♪銀河カニ工船の番組でみた光景ィ――!」
「風速70mあるから2人とも怪我しないようにね――ッ!」
メーチュ
「これ終わったら次は斧で凍った船の氷を割るのと――ッ!
【鯨】さんの機械部に防水処理をした後にィ
水の掻き出しィ―――!」
ソラ
冒険者になって間もないソラは過酷さに叫んだが
激しい雨風に空しくかき消されるのであった…!
嵐の作業に奮闘すること1時間
船はようやく穏やかな空域に入ったらしく
透き通るような青空の下を優雅に航行していた
ソラ
「ゼェ…ハァ……し、死ンだ……!」
メーチュ
「めげずに良く頑張ったねソラちゃん…ッ!
バグのバグ技『バース』の使い方も上達してるのかも…ッ!」
ソラ
「『バース』……理を歪ませる力ね……
肉体増強と体力の向上はまぁ…感覚的に発揮できてるのかも…」
ナスカ
「これから大冒険が始まるからね
平場だって修行の一環としないと」
「ソラ、相撲でもとろうよ、稽古つけたげる!」
ソラ
「ちょ…相撲!?少しは休ませッ…ンンッ!」
ナスカ
「ほーれ、がっぷりよつ♪」
メーチュ
「わはぁ~、懐かしい修行風景…ッ!」
しかし、あたしたちが修行、
もといイチャつきあってると
船長が大慌てで割り込んでくる
エリオット船長
「オイオイオイ!」
「ずっとなぁにやってんだァ、お前らは!?
こっちで大変なことになってる、ちょっと来いっ!」
3人
「た、大変な事?」
向かったのはメイン甲板
同じく集まったヴァイキングたちがザワついている中
その真ん中に電磁魚網で捉えられたであろう小型雲海船があった
ソラ
「……2~5人用の船って感じね
一体どこで拾ってきたのかしら」
エリオット船長
「嵐を進んでる間、こいつがずっと後ろについてたンでねぇ
ワシの船を風避けに使うなんて生意気じゃねぇか」
「とって食おうと思ってよ、捕まえた」
「赤角ちゃんよォ、尋問してやってくれや」
ナスカ
「出すもん出せェ!――って言えばいいのカナ?
あはっ♪ ヴァイキング然としたお仕事だねぇ」
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
あたしが船体を蹴り上げると、船は60cmほど宙に浮き
ギャンッ!という悲鳴と共に、地面に叩きつけられた
すると船はもう降参です、と言わんばかりに扉が開き、
船員たちが崩れ落ちてきた
突然の会敵にヴァイキングたちは武器を構える…
がしかし、場の緊張とは裏腹に、
降ろされた船員の方は気の抜けた叫びをあげる!
白衣を着た少年
「おいってめぇ!ナステン!!
お前わかっててやってんだろ!?」
小柄な獣人族A
「乱暴!…でありますな!ヒドイ!」
小柄な獣人族B
「ボクら仲間じゃないんでしたっけ~!?」
なにか緊張感のない雰囲気が場に漂うと
船員たちは困惑したように武器を降ろした
船長は呆れ顔であたしを見る
エリオット船長
「説明しろッ」
ナスカ
「あはぁ~♪ 彼らはディバグの裏方『ベース隊』だよ」
「この船の一角をディバグの拠点用に間借りしようかと
呼んでたんだけど…嵐で忘れてた…!」
「それと『ナステン』はナスカ・テンタクルスの愛称ね♡」
エリオット船長
「それは知らねえよっ!?」
「…いや忘れてたって、お前さん…」
「酒場で見たリボルバー野郎も別に同行してる訳でもねぇし
組織としてなァ~んか、まとまりが適当じゃねーか??」
ナスカ
「あはっ♪ 手分けしてるんだヨ、適切にね」
「それじゃベース隊たち~、拠点作りに入るよ♪」
あたしが命令をすると
獣人族2人が合点承知!と仕事道具を掲げる
メーチュ
「えぇ~っと…船長さんとソラちゃんに紹介すると…ッ
茶色毛で得意気な方がトール・デトールくん」
トールは任せておけと言わんばかりにハンマーを掲げ、鼻を鳴らす
メーチュ
「そしてピンク毛でお目々ウルウルな方がデル・デトールくん」
デルは照れくさそうに道具のコテを抱きかかえた
ソラ
「彼らもバグで……兄弟弟子なんだっけ、修業時代の?」
「…ま~たバグ技ですごいものを見せられそうね、船長さん」
エリオット船長
「はぁ面倒ごとだけは勘弁だゼェ」
「ってガキんちょども!!」
「メインマストになぁにやってンだっ!!」
見るとトールとデルはメインマストに
黒紫色の鉄枠を取り付けようとしていた
トール・デトール
「亜空間装置!…でありますな、便利!」
デル・デトール
「ボクぅ、『空間の理』を歪ませるのが得意で…
こうやってどんな空間にも扉を作って部屋を埋め込ませられるんだ~」
エリオット船長
「亜空間ン~~~????」
そして獣人2人は船長が制止する間もないほどのスピードで
マストに扉を取り付け、華麗にお辞儀をしてみせた
デルがソラに入って入って!と手招きをすると
ソラは半信半疑な表情でドアノブを回した
ソラ
「え…!ホントに部屋になってる…!」
「寝室にキッチン・バスルーム・倉庫…書庫まで!!」
メーチュ
「浄水や発電装置、お風呂場や洗濯機もあるからね…ッ!
過酷な旅に、解放感と潤いを提供する空間なんだヨッ」
エリオット船長
「ふんっ、研究スペースに通信施設まで完備とはなぁ」
「セキュリティもパっと見だけでも抜かりがねぇ
たしかに隣に居るのはヴァイキングなんだ…
危機管理できてるじゃねぇか」
エリオット船長
「ま、こっちとしては船の生活スペースを
圧迫しねぇで済むしよぉ、助かるゼ」
ディバグ拠点の見学が一通り終わると
トールとデルは更なる補強作業に従事する
次に紹介するのは無愛想な白衣を着た少年だ
メーチュ
「―――そして、こちらがラオニティス先輩ッ!」
「ベース隊のリーダーであり、医療全般担当ッ!」
ラオニティス先輩
「ま、テキトーにやるから、ヨロシク~」
ソラ
「医療をテキトーにッ!?」
ラオニティス先輩
「メンドーだし、そんなもんだろ」
「…あんたがソラでイイんだっけ?
ナステンが大ケガしねーようにメーチュと全力出せよ」
「オレの仕事を増やすなって意味ね、コレ」
ナスカ
「あたしを心配してくれてるって解釈でもあるね、コレ♡」
ラオニティス先輩
「くそダリィ…おい~…」
ソラ
「しょ、諸説ね……こっちをみないで頂戴」
そして先輩は気怠そうに船内の方へと向かい、振り返って言う
ラオニティス先輩
「メンドーな事になる前に、
あんたらの船の備品もチェックしといてやる」
「手遅れで死んで船員減るのもダリィし~」
「そいじゃ」
先輩が完全に行ってしまった後に船長がボソリと一言
エリオット船長
「そういう素直になれない年頃ってあるわな、コレ」
ナスカ
「先輩はあぁ見えて3つ上だヨ
気にしてるからあんま言わんどいてね」
「そしてベース隊、
最後の一人がディバグのマネジメントと通信担当」
「ミコ・セリザア嬢ね」
あたしの呼びかけで、小型船から陽気に顔を出したのは
メイド服を着たトライングル族のセリザア
おしゃべりな彼女はテンション高めに喋り出す
ミコ・セリザア
「やぴぃ~!セリザアだぉ~、っつってね~♪」
「てかナステン先輩さ!ヤバくねこの船ッ!
【鯨】の体の上下、向き逆だっちゅ~の♪ ククク…ッ!」
いつもの調子で場を盛り上げようとするセリザアだが
同族の若い娘の登場に、船員たちは目を輝かせているようだった
エリオット船長
「カ、カワイイ…!
め、メチャクチャにベッピンさんじゃねぇか…!」
ミコ・セリザア
「ンン~~ッ!あんた妻帯者でしょーがw」
「ま、バグに恋愛感情とかはナインデ、
船員さん方もよろしゃす~ww」
「ンで!ソラさんも初めましてッスね!」
「よろしゃす~w」
ソラ
「つ、通信・管理担当とかいって、ずっとヘラヘラしてるけど…
連絡の中心でしょうこの子…ホントに大丈夫なの??」
ミコ・セリザア
「ま、ま、まぁ~!!ソラさぁ~ん!」
ミコ・セリザア
「説明するとウチは『熱光の理』を歪ませるのが得意でサ~
この歪んだ電波を使って暗号通信とか、電子工作とかするんスよ」
「でもこの技能持ってる人、他にいないからぁ~、ディバグに」
「まぁつまり、代わりが居ないってワケでぇ!
とにかく!何が言いたいかっていうと~…」
「あんまりwww大丈夫じゃないwwwww」
ナスカ
「ウケるwwww」
ソラ
「緊張感がないッ!!」
メーチュ
「まぁまぁソラちゃん…ッ!」
「愉快なギルドってことで、ここはひとつ
よろしゃすってことで…ッ!」
一通り紹介が終わると
セリザアとトール&デルは拠点の内装と施設の調整に入っていった
ナスカ
「ディバグで動いてるチームは他にもあるからね
ベース隊の人たちのサポートが優秀で助かってるんだよ」
ソラ&エリオット船長
「優秀ねぇ…」
メーチュ
「うふふ、わたしたちもナスカ隊として
心のスターメモリーの手掛かり探しを頑張ろうね…ッ!」
「それにほら、次の冒険の舞台が…見えてきたッ!!」
メーチュが指さした方に、たしかに大きな島影が見えた
テーマパークのようなお城の建造物や
巨大な工場が煙を吐きながら駆動する賑やかな街のらしい
エリオット船長
「あれが『玩具の街トイメッカ』だな」
「雲海でも浅い空域の島で
この銀河でも屈指のホビー産業を誇る裕福な街なんだゼ」
「今回は補給や航路演算のための寄港だナ」
ソラ
「さっきみたいな嵐を避けるためにも重要ね
停泊期間はどれぐらいなの、船長さん?」
エリオット船長
「演算自体は半日もかからんから…」
「ま、出航は明日の夜明けってトコだな」
メーチュ
「地盤の無いこの惑星にも夜ってあるんだ…ッ!」
エリオット船長
「ミューブは虫食いの星でスケスケに思われがちだが、雲は厚ィ
浅い海域なら、ちゃんと昼夜はある
まぁ他の星と比べて夕焼けと朝焼けがめちゃくちゃ長ぇけどな」
ナスカ
「ふ~む、海域の深度による時差ボケには要注意だね」
ナスカ
「…というか」
「ヴァイキングだからって襲う対象じゃないんだネ、街って」
エリオット船長
「ワシらは野蛮人じゃねぇゾ」
「この光線銃がぶっ飛ばすのはイケすかねぇ奴らだけ
子供の夢奪うようなクズと一緒すんじゃねェ」
ナスカ
「あはっ♪ いいねぇ~」
「よぅし!それじゃあ、
あたしたちも心のスタメモに関する情報集めのため!
島に上陸、冒険者酒場まで繰り出しちゃおっか」
エリオット船長
「そうしとけ」
「この島ここん所、
『心の理』に関する怪異も多いって聞くし
なにか見つかるかもナ」
「ま、メンドーごとのねぇようにな
あの白衣の少年じゃあねぇけど」
ナスカ
「ハハハハハ」
エリオット船長
「おめぇの事、言ってんだよッ!?」
あたしが笑って返すと
船長はマジで面倒くさそうな表情をした
それこそまさに、白衣の少年じゃあねぇけど…!