第4話 風の星ミューブ

パートD

 

エリオット

「それで…赤角ちゃんよぉ」

「この老体になンの用だったんだぁ~?」

 

「よもや友達になりたかったとかじゃねぇだろ?ン?」

 

もはや何杯目かもわからないほど酒を飲んだエリオット船長は

頭をふらふら揺らしながら問いてくる

 

ナスカ

「いやいや、凄腕のヴァイキングとなら友達になりたいもんでしょ」

「……けどまぁ、打算的な面もモチロンある」

 

「…あたしが欲しいのは航海士と船」

「もちろん心のスターメモリーを探すためね」

 

エリオットは特に感慨もないような仕草で窓の向こうに目をやった

エリオット

「ま、そうなんだろうなァ」

 

7つ目の眼帯の子分

「赤角ちゃん、その話題はこの店では禁止でぇ―——」

 

エリオット

「いや、こいつぁ言っても聞かねぇ目ぇしてる」

「ただ見せりゃぁ良い」

 

ナスカ

「見せるゥ?…よくわかんないけど、聞くだけ聞いてよ」

 

「航海士としての契約は『1年』!」

「あたしたちね1年以内!…で

 あの宝典を見つけたいんだよ、どーしてもッ!」

 

「そこでエリオット船長…!あなたの力が必要なんだ」

金髪の1つ目部下

「い、1年以内!?」

「何言っちゃってんの、あんたぁ!」

 

エリオット

「………ハッ、時間が大事つぅワケか…」

「けど未解明だらけのこの雲海を1年以内でかぁ?」

 

「ふざけた話よなぁ、ゴクゴクっ…」

 

ナスカ

「ふ~む…本気なんだけどね、マジの本気」

「ンなら、この懐中時計見てみてよ」

 

船長に時計を手渡すと、彼は鑑定するかのように観察しだした

 

エリオット

「なんだこの時計??」

ナスカ

「寿命時計だよ、残りの寿命がわかるって代物」

 

あたしの説明を聞くや否や、

船長は汚いものを触るかのように時計を放り出した

 

エリオット

「うおぉえ!気味の悪ぃもん見せんじゃねぇよ…!?」

「ない寿命が更に縮まるじゃねぇか…!」

 

ナスカ

「大丈夫だよ、これでわかるのは

 持ち主のバグの寿命だけだからっ」

 

エリオット

「ぬぬぅ…6年と4か月とかリアルな数字は心臓に悪ぃんだよ…」

「それってバグの…あれだろ…なんていえばいい」

ハゲで3つ目の子分

「短命!」

 

エリオット

「アホっ!身も蓋もねぇ言い方すんじゃねぇ!」

「んぁー、あれだ…覚悟、決めてるヤツ!…ってことだろォ?」

 

ナスカ

「…あはぁ♪ まぁそういうことっ♪」

「あたしたちスターメモリー7つを全部手にするって決めてるからさ」

 

「1年に1つっていうのが最低ラインなのッ」

「だから船長…あたしの航海士になって♪」

 

ハゲで3つ目の子分

「1年に1つって…誕生日プレゼントじゃねぇんだから!?」

赤い目の3つ目部下

「…ふ、ふざけてねぇのはわかったけどよぉ

 おやじ、こいつぁ…どうすんでぇ?」

 

エリオット

「どうもこうもねぇ」

「……諦めて、お引き取り願うしかねぇよ」

 

ナスカ

「ねぇ!ちょっと…ねぇったら!」

 

「……ホントに、もう船乗り引退…しちゃったの……?」

「も、もしかしてなんかの病気だったり?」

 

エリオット

「……冒険の終わりなんて、よくあることじゃねぇか」

「そんな顔すんなや、赤角ちゃん」

 

「ただの『呪い』…さね」

 

ナスカ

「えぁっ? あ~~………の、呪い?」

 

突然の『呪い』…その意味深な言い回しの行間を読もうと

考え込もうとしたその隙に、

耐えかねたウチのデータキャラが声を上げる

 

ソラ

「こんな時代に呪いィ…??」

「眉唾な話ね、断るにしたってもっと良い言い訳あったでしょうに」

 

エリオット

「頭の固いアーキビストにゃわからんか」

「ところがどっこい、まさしく呪いでよ」

 

「眼鏡のお前さんのテーブルの空いた席、そこにも3人

 …いや4人か? 最初からそれが座っていたぜ?」

ソラとメーチュは空いた席の方を見て縮こまる

 

メーチュ

「1人?2人?? いいいい一体なんの話なんですかぁ…ッ!?」

 

エリオット

「―――『悪霊』だよ」

「その両の目を凝らして、耳を澄ましてみろ」

 

「ワシが船と雲海の話をしちまったからよぉ…寄ってきたぜ」

 

ナスカ

「う、嘘だぁ…だって『理の歪み』なんて一切感じな…」

 

そう…歪みの理は感じなかった…!

しかし、確かに目を凝らして見渡すと

ラウンジの至る所に、それらは居た

ソラ

「!?!?!?」

「あああああ悪霊!?!?」

 

メーチュ

「ひぃぃぃやあああぁぁぁ!!」

 

彼ら悪霊は映画で見るようなちょっと半透明な人間…とかではなく

テレビジョンの砂嵐的な、朧げな輪郭を持つ影の様なものだった

 

彼らの登場と同時にラウンジの電灯がチカチカと不気味に点灯し

天井からはバキパキパキ…という不快なラップ音が鳴り響く

 

室温もグッと冷え込み、背筋に悪寒が走った

悪霊たち

「シャシュエァアァァェェエエエ―——ッゥェ!」

 

エリオットの子分たち

「ひひひぃぃぃ――――――ッ!」

 

ナスカ

「こここここ、これが呪いぃ…!?」

 

老練なエリオット船長でも平気…という訳ではないらしい

目を背け、微かにだが汗をかいている

 

子分たちにいたっては互いに抱き合いながら震えていた

エリオット

「最後の旅でな、『風の王子』を名乗る2つ目の男に襲われて

 見たことねぇ謎の力で呪いをかけられちまったんだ!」

 

「ワシぁ、あの空島に航路作成に寄っただけってのによ、クソっ!」

 

船長は大きなジョッキを一息で飲み干し、卓に叩きつけた

 

「―――普段はなんでもねぇってのに…」

「航海の話題をしたらこうだ…!こんちくしょう!」

 

ナスカ

「そんな一方的に…『呪い』を…」

 

エリオット

「船に乗りゃ、もっとすんげぇぜ…」

「赤角ちゃんも、気ぃ狂う前に諦めな」

そういってエリオットは疲れたのか

長い首をダラリと垂らしてため息を漏らした

 

さっきまで快活なおじいちゃんだったのに、

今はちょっと…

ずぶ濡れのぬいぐるみのような悲愴感を漂わせている

 

そして航海の話題が途切れたからか、

悪霊たちも空間に溶けるように消えていった

 

ナスカ

「…驚いた、消えるときにも歪みが発生しないなんて」

 

ナスカ

「ソラ、解析結果はどうですかい?」

 

あたしがソラたちの方へ振り返ると、2人はまだ抱き合ったまま震えていた

 

ソラ

「ヒィィ!ここここういうタイプの旅って聞いてなかったわよ!!!」

 

メーチュ

「おおおお思ってたのと違うよ~…ッ!?」

 

ナスカ

「う、うむぅ…まぁ確かに雲海・空船・大航海~!

 って風情じゃあないねぇ」

 

「それで解析結果は~??」

ソラ

「えぁ…そ、そうね……」

 

「確かに銀河一般で言われている心霊現象には

 『心』とか『熱光』…『時間』『法則』の歪みが

 検出されることが多いのだけど」

 

「悪霊からは……なにも感じない…気がする?」

 

メーチュ

「…気がする?」

 

ソラは右手を前に出し歪みの流れ?…を探している

ソラ

「なんというか…う~ん」

 

「理の歪み…それ自体は無いのに、私たちの目や脳は

 さも歪みの影響を受けてるかのように振舞っているのよ」

 

「電灯やラップ音も同じ」

「歪みは無いのに、歪んでる」

 

ナスカ

「『無い』…けれど確かにそこに『ある』……」

 

メーチュ

「ドーナッツの穴みたいだね…ッ」

「無い、けど有る…認識がバグるヤツ~…ッ」

ソラは船長の方を見ながら、右手をモギモギさせている

 

ソラ

「………『認識がバグる』?」

 

「―――もし」

 

「『歪みを認識できなくなる歪み』…を

 受けてるのなら確かに辻褄は合うかもね」

 

そういって今度は左手で自分の頭に向かってモギモギしだした

 

メーチュ

「その恰好ちょっと面白い…かも…ッ!」

「…でも、ありうる事だよ……」

 

「だってここは雲海…『心』のスターメモリーが眠る場所…ッ」

「人の『認識』を変容させるほどの超強力な歪みもありうるよ…ッ」

 

ナスカ

「強い歪み…どうやらその元凶が重要そうだね」

「やっぱり、この悪霊の元を追跡すべきだと判断できる」

 

「『風の王子』つったっけ?」

「ソイツくだして、宝典の手がかりとしようよ☆」

 

あたしは再び船長の正面席に駆け寄った

 

「そうすれば、船長さんの呪いも解除できるかも知れない!」

 

「汚名挽回♪ 利害の一致♪ 船長…ほら、今こそ!」

「出航の時間!」

 

あたしは船長に向かって励ましのガッツポーズをとってみせた

しかし船長は一瞥をくれただけだった

どうやらもうお眠らしい…

 

エリオット

「話はもう終わってらぁ」

「時間ねぇんだろ?さっさと別の航海士探しにお上に戻りな」

 

赤い目の3つ目部下

「楽しく飲み交わした仲だっ」

「俺らに『手荒』なマネさせてくれんなよぉ?」

 

ナスカ

「手荒。」

 

あたしは手首の螺旋の傷に触れる

ナスカ

「そう!いう事を聞かない人には『手荒』なマネが一番だよね♪」

 

ヴァイキングたち

「………はぁ?」

 

皆から注目される中

あたしはおもむろにガッツポーズの拳を開く

 

すると中から赤黒く、血管の浮いた禍々しいナイフが顔を出した

 

ナスカ

「ニヤリッ♪」

 

これを見るや否や、船長は激しい動揺をみせた

そして「それ」を下げてたであろう首元らへんを必死にまさぐる

 

エリオット

「ね、無ぇ…っ!!!!」

 

ソラメーチュ

「ね、無ぇ………?」

 

エリオット

「まさか……てめぇ!

 このワシから盗りやがったのか!?!?」

エリオット

「『船の鍵』をよォ―———ッ!?!?」

 

ナスカ

「あははははぁーっ♪」

 

ヴァイキングたち

「お、おめぇ……」

 

ソラメーチュ

「い、一体……」

 

一同

「何やっちゃってんの――――ッ!?!?」

 

店内に総ツッコミが鳴り響く

 

ナスカ

「さ~ぁ?『手荒』の時間だよ」

 

第4話  風の惑星ミューブ

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