あたしが店の真ん中のお立ち台まで行こうとすると
マスターは振り鐘を咥えて、あたしの頭に止まった
ミミズクのマスター
「道を譲って欲しいッス~!」
「協会として過度な贔屓はできないッスけど…
繁盛のお礼に一肌ぐらい脱ぐッスよ」
ナスカ
「あはっ♪ ありがとう、マスター♪」
「―――よいしょっと…!」
カランカランカランッ♪
あたしがお立ち台に登るとマスターが視線を集めてくれた
ミミズクのマスター
「注目ッスよ~♪」
「かの者は雲海に挑む新たな冒険者~!」
「それも只者ならぬ…!
時代に風穴空けし、革命児ィ~!」
「問おう」
「汝、いかなる者か」
ナスカ
「あたしの名はナスカ・テンタクルス!」
「ギルド『ディバグ』の頭(かしら)!」
ナスカ
「あのテルミナの大解析を
やってのけたのは誰が知ってるゥ!?」
「それはあそこの黒髪メガネの美少女…
あたしの仲間ソラ・アマハだ―――ッ!」
あたしが入口付近のソラの方を指さすと、酒場中の人が注目する
彼女の顔を覚えてる人も多く、
「ホントだ!」と熱を上げる声があちこちで上がった
客
「テレビジョンで映像観たぜぇ!」
「あんたら面白い事してくれたなぁ――――ッ!?」
皆に注目されるとソラは面倒くさそうに愛想笑いを浮かべた
ナスカ
「ディバグの目的はモチロン『心のスターメモリー』!
別の呼び名で『心の法典』…ッ!」
「これぇ…バグの冒険者が一番乗りで発見できたらさ、
そりゃあワクワクしない!?」
客
「バグで…若輩のアンタらがか!?」
「そりゃあ大穴も大穴!賭けは大盛り上がりッ」
ナスカ
「あはっ♪ そうでしょう~?」
「そ・こ・で…だよ?」
「あたしたちは今、航海士を絶賛募集してるってわけ」
「契約期間は『1年』」
ナスカ
「―――ディバグは1年以内に『宝典』を手にする!」
客
「い、1年以内―――ッ!?!?」
「マジで言ってんのか、おまえ!?!?」
ソラ
「い、1年以内―――ッ!?!?」
客
「いや、あんたも驚くのかよッ!?!?」
ナスカ
「当然でしょっ!あたしたちは早世!」
「文字通り命賭けてんだから!」
ナスカ
「ここのリストにあるような
浅瀬チャプチャプな航海士じゃあダメなのッ!」
「我こそはディバグを深層へと導き、
共に!『心の法典』の発見という
栄光を掴まんとする航海士は居ないかね――ッ!!?」
あたしは情熱をもって同志を募ったけれど
客たちは困惑してるらしい
たぶん飛ばすべきヤジを考えてるようだった
ミミズクのマスター
「ナスカさん、それはやっぱり
ちょっと…厳しい考えッスね」
「例えば、かの有名な遺物『時を戻す銀時計』だって
マグマの迷宮攻略におよそ30年を費やしたんスよ~」
「その他にも発見に200年かけた遺物だってあってぇ…」
「衛星級遺物ならともかく
スターメモリーを1年以内だなんて…
冒険者協会としては計画的な冒険とは言えないッス~」
ナスカ
「それを浅瀬でチャプチャプって言ってるの!」
「あたしたちは7つのスターメモリーを手にする
それがこのギルドの悲願なんだから!」
「死ぬほど!本気で冒険したい人
いるはずでしょ!時は大冒険時代!」
「最強の航海士…求ム―――!!!!!!!」
あたしが腹からの本気大声を出すと
マスターや周囲の客たちが1mほどぶっ飛んだ
客
「うるせぇ―――ッ!!」
「無謀な冒険だ――――っ!!」
「身を…滅ぼすぞォ―――!!!
俺の父親みたいになぁ―――ッ!!!」
ナスカ
「うるさいうるさい!!」
「冒険したい冒険したい冒険したい―――っ!」
「航海士 航海士 航海士―――ッ!!!」
客
「うわぁ!お立ち台でごね散らかすな――っ!」
客
「共感性羞恥を振り撒く悪魔め!
さっさとそこから降りんかい!」
そういってその場にいた冒険者たちは
空の樽ジョッキを投げつける
ミミズクのマスター
「あぁ――、困るッス!
冒険者さま、冒険者さま――!ホワァ―――!!?」
ナスカ
「あはっ♪」
「甘い甘いッ!」
あたしは亜空間バッグから程よい棒を取り出し
飛んでくるジョッキを器用に乗せていく
持てない分は利き足とお尻と角で、
最後の一個は頭頂でキャッチ!
ナスカ
「じゃんッ♪」
客
「えぇ…!?」
「…ちょっとスゴいのやめろ、突然に!」
突然の雑技芸に謎のパラパラとした
小っちゃな拍手が起こったが場は白けてしまったらしい
みな各々の卓に戻っていった
あたしはジョッキたちを
一個ずつ店員に返し、ソラとメーチュのもとへと戻った
ソラ
「呆れた……」
「奥の手って…ごね散らかすってことだったの…??」
ソラ
「悪名広めるのに役立つだけで、
これじゃ航海士は見つけられないじゃない…」
ナスカ
「あははははっ♪ ビックリした?」
メーチュ
「うふふっ」
「……でも、見つけたね、ナスカちゃん…ッ!」
ソラ
「……見つけた?」
メーチュ
「この街の情報通だよ…、たぶんだけどッ」
「今もワタシたちに目線を送ってくれてる…!」
そう……あたしがごねてる間
人々が罵声を飛ばしたり、カメラで激写してたりする中
1人だけ発煙弾を掲げる男がいた
ナスカ
「弾を掲げる詳しい意味はわかんないけど
発煙弾は旅立ちの祝砲に使われるもの
きっと、雲海よりも深い意味があるんだよ」
ソラ
「いや、そんなデータ…どこにもないわよ…
はぁ……結局行き当たりばったりじゃない」
そんな小言を吐かれつつ
あたしたちはその男の席の元へ向かう
そこは店の角っこ、窓もなく薄暗い
男はボロボロの帽子と外套を纏いフラフラと酒を飲んでいた
近づいても手招き1つもないので、
勝手に向かい席に座ると男はケタケタと笑い始めた
酔っぱらった男
「ケタケタッ! ヒック…ッゥェ!」
「……久しぶりだなぁ、ナスカ嬢ちゃん」
ナスカ
「おぁ!? もしかして穴あき帽子のラバン!?」
「え~と…そうだ8年ぶりだ!ミューブに来てたんだね~」
ソラ
「…どなた?」
穴あき帽子のラバン
「別段名乗る程の者じゃぁないがね
嬢ちゃんの親父さんがやってる酒場の元常連でさぁ」
「いやぁ~…懐かしいねぇ、あの雑技芸!」
「あのちっこい看板娘がこんなに
グローバルな笑われ者になってよぉ!ケタケタ!」
メーチュ
「ナスカちゃんが酒場の娘っていうのは知ってたけど…」
「は、8歳から既にやってたんだ、あの雑技芸…ッ!!」
穴あき帽子のラバン
「それで親父さんは元気にやってるかい…!?」
「――とかぁ…世間話してぇところだけど、
おたくら生き急いでんだろ?」
「情報だけさっさとくれてやる
まぁ、あの親父さんはどうせ元気にやってるだろうし」
ナスカ
「わかってるねぇ♪ 助かるよ!」
穴あき帽子のラバン
「へへっ」
「いいか嬢ちゃん、本気で1年以内って考えてんならよぉ
あの航海士を置いて他にはいないぜぇ」
「『慟哭のエリオット』」
「この星一番の船団…『エリオット団』の船長だ!」
「まぁ、奴さん航海やめて1年?2年くらいらしく
ここの下層で飲んだくれに成り果てちまったらしいけど」
3人
「じゃあダメじゃん!!」
穴あき帽子のラバン
「たはぁ~…でもよぉ……実力はマジだぜ、マジ
惑星ミューブの中でも雲海中層まで
たどり着いた唯一の船団って言ってたし」
「アプ・ストリーム下層の咳き込み横丁に
ある酒場『黒い煙モクモク停』に行ってみぃ?」
「奇数眼のトライアングル族の
厳つい義手の老人がいたらその人だ」
ナスカ
「……ソラ、どうデータは?」
ソラ
「……な、無いわね」
「少なくとも、教会のアーカイブには…!」
穴あき帽子のラバン
「まぁ、真相は本人から聞きな」
「……それでナスカ嬢ちゃんさぁ…」
「肝心な情報料だけどォ……」
ナスカ
「ツケをチャラにはしてあげられないよ♪」
「そこはパパにしっかり返してくれないとぉ
看板娘として沽券に関わる…!」
ソラ
「できた娘…!」
ナスカ
「けど、情報への対価はちゃんと払うよ、ほら」
穴あき帽子のラバン
「んぇ!?ただの200キーン紙幣じゃねぇかぁ!?」
「こんの情報、ビール3杯分ぐれぇってかぁ…?」
ナスカ
「違うよ」
「あたしたちの旅路を
決定づける重要な情報だったよ」
「だけど現状はただの可能性」
「なら対価も、可能性を差し出さなくっちゃ」
穴あき帽子のラバン
「……ケタケタッ!なるほどなっ」
「ったく、いくつになっても面白い娘だっ!」
穴あき帽子のラバン
「まぁ、うまくやれよ」
「お前さん方に良い風が吹くのを、祈っとくぜぇ!」
そういってラバンは酒を一気い飲み干し
冷めたステーキをむしゃむしゃシャブりながら
あたしたちを送り出した
メーチュ
「下層は…きっと、物騒なところだよね…ッ」
「奥の手、敷いておこうかな…!」
ナスカ
「あはっ♪ そこらへん上手く頼んだよ、メーチュく~ん」
ソラ
「……??また違う雑技芸が見れるのかしら…
はぁ…ホント面白い娘ってやつねぇ…」
心配がるソラをからかいながら
あたしたちは下層へ降りる階段へと向かった
バサバサバサ
ナスカ一行が店を出た直ぐ後、
穴あき帽子のラバンのもとにマスターが飛んでくる
ミミズクのマスター
「ラバンさん、もしかして下層の航海士を薦めたッスかぁ!?」
穴あき帽子のラバン
「まぁな、でもあの子も言ってたろ?」
「上層の航海士は浅瀬チャプチャプってぇ…
よぉく見てるじゃねぇかぁ、ケタケタッ!」
ミミズクのマスター
「だからってぇ、なにもエリオット団はないッスよォ~」
「まさか…」
ミミズクのマスター
「ミューブ一番の『ヴァイキング』を薦めるなんて…!」
穴あき帽子のラバン
「大丈夫さ、あの子またまた言ってたろォ!?」
「文字通り命賭けてんだ、っだっつーよぉ」
「ケタケタケタッ!」
ミミズクのマスター
「それぇ全然大丈夫じゃないッスよ~!」
マスターが恐ろしさに震えるを見て
穴あき帽子のラバンは他人事かのようにケタケタと笑った