第4話 風の星ミューブ

パートA

コォォオオォォォッ!

キュリキュリキュリ!

 

惑星間高速旅客機の柔らかなベッドにて

フニャフニャと目を覚ますと、

遠くの方で空気を切り裂く音と

推進機の細かい噴射音が響いていた

 

メーチュ

「ナスカちゃん、もう到着だよ」

「ほら大気圏突入…ッ」

 

大気圏突入…!!

あたしはベットから飛び起きた

 

ナスカ

「わぁ!」

「雲海!雲海雲海ッ!」

メーチュ

「風の惑星ミューブ」

 

「終焉が空けた星の虫食いに、流れる白く深い雲の海…ッ」

「おまけに空間の理まで歪んじゃった始末…」

 

「一体どこまで深く続いてるんだろう…ッ」

 

ナスカ

「あはっ♪」

 

「この雲海に眠る『心のスターメモリー』…

 またの名を『心の法典』」

 

「その計らいかな、ヴェールの

 向こうには魅かれるものがある!!」

ソラ

「ビャウビャウ…ビャウ…」

 

ナスカ

「ソラはま~だ寝言ば言ってくさ…」

 

「着星が静かなのもいいけど、

 こう…ド派手に参上!って感じが足りないよなぁ」

 

そういうとソラは応えるようにモゴモゴと音を出し

メーチュがくすくすと笑った

締まりのない光景だけど、

雲海に浮かぶ都と青い空が近づくにつれ

ワクワクとヒリ付きが強くなってくる

 

ナスカ

「不備は無いね、それじゃあ…行こう!」

 

ソラを叩き起こし、あたしたちは到着エントランスへ向かった

 

ミューブ星都 『アプ・ストリーム』

 

雲海に浮かぶ大きな大陸に造られたこの星一番の都市

星の外殻と地続きだから、

風に流されることなく発展してきたという

宇宙港からエレベーターを

降りるとそこは街の中心街広場

 

 

ズラっと並ぶ建物の

露出する木の骨組み模様が異星情緒を醸し出している

 

 

広場の道は石畳で

お祭り時にも劣らない程の、怒涛の人の往来に

カツンカツンと心地の良い足音が響き渡っていた

 

先日のソラの『大解析』によって、

この星の雲海深くに『心のスターメモリー』が

眠っていると判明して以降、ミューブは時勢の中心地…

 

 

誰しもが富と名声を夢見て、この地に集まったのだった

 

ソラ

「つい数日前まで、

 小規模の観光星都に過ぎなかったのに、人増えたわね」

 

「テルミナ以上じゃない?

 地元民も行政も大変そう」

 

メーチュ

「他人事みたいに言ってる…ッ!?」

「でもまぁ、一番に『心のスターメモリー』を見つけたら

 それだけで伝説の冒険者だもんね…ッ」

 

「あそこにも、ほら…ッ!」

メーチュが指さす方を向くと

広場の噴水の上に立ってる冒険者たちが見えた

大衆に向かってスターメモリーへの熱望を叫んでいる

 

冒険者の青年

「「心のスターメモリー」別名「心の法典」ン……!」

「この宝典を見つけて、何をするか…だってぇ!?」

冒険者の青年

「心の理を歪め、人心を意のままにできる宝典だぞ!」

 

「もちろん銀河中の信仰を集め、俺を神と拝ませるんだヨ!」



身なりの良い学者A

「あぁ…なんと卑しい願いか…!」

 

「俗世の器のまま、大いなる心の力を振るっても

 それで底抜けの欲望を満たすことは出来ん」

 

青年に反論するのは双子の学者っぽい男たち

身なりの良い学者B

「真に!変えるべきは己自身の心!」

「『宝典』は精神の昇華にこそ振るうべき力」

 

「宇宙の理を悟り、運命の真実を得るのだよ!」

 

そこへ更に商人の男が笑いながら異議を唱える

 

派手で小洒落た商人

「大層な事言ってますけどぉ

 全部ワクワク感が足りないと思いますけどねぇ!」

派手で小洒落た商人

「だって『心』の!スターメモリーですよ!」

「心沸き立つウッキウキ♪

 華やかで夢のある事にその力を使うべきじゃないですかねぇ」

 

「例えば!我が社運営してるテーマパーク

 テルミナドリーミーランドを大改築♪

 楽しさを増幅させる新アトラクションなんかを導入して

 興行収益もウッキウキ♪」

 

見物客

「いや結局、資本主義!!!」

 

ソラ

「………ま、漫才か何かかしら?」

 

 

「にしても心を御する力…ね」

「そりゃ、いろんな人が欲しがる訳だわ」

 

メーチュ

「冒険者以外にも、学者・商人・政治家・宗教家その他…」

「みんな我先にと乗り込んできてる…ッ!」

 

ナスカ

「まさに祭りって感じで良き良―――――――」

 

ブルォロロロ―――ッ!!

その時、地面がカタカタ揺れるほどの大きな音が鳴り響いた

中心地に隣接している停泊港からだろうか

遺物の力で推進力を爆上げされた雲海船たちが、

大きな音を立てて出航しているようだ

 

ナスカ

「おぉ―――ッ!!見て見て!雲海船だーっ!」

 

ソラ

「あれは複数のプロペラで推進しているのかしら?」

「向こうの船は巨大な生き物の翼が船にくっ付いてる…!」

 

「搭載してる遺物によって…随分構造が違うのね」

 

メーチュ

「あれ!『法則』の歪みを使った魔法の船かも…ッ!」

「あ~ぁ、憧れるな~ッ!」

ナスカ

「あはっ♪ いいねいいね♪」

「でもあたしたちも乗る船探さなくっちゃ」

 

「あぁ~♪ どんな船に乗ることになるのか…

 考えただけで今からワクワクッ!」

 

カランカランカランっ♪

その時、近くで高らかな振り鐘の音が鳴り響く

 

そこは冒険者たちの運命の交差点…

――――ミューブ冒険者大酒場「風の桟橋」だ!

 

ナスカ

「あっちだ!いこう!」

 

あたしたちは酒場に飛び込んだ

酒場は雲海を望む絶壁からせり出た橋先にある

 

街の建物と同じ木造建築だが、

1,2階の壁はぶち抜かれバルコニーに繋がっており、

冒険者らしい開放感と漏れ出る賑わいに彩られていた



扉を開けると、人の熱気と爽やかなスパイスの香り、

そして酸っぱいアルコール臭が風と共に吹き抜けてくる

 

ソラ

「大繁盛も…大繁盛ね…!!」

 

店内は人の波に次ぐ波…屈強な大男から

フレッシュな女子冒険者まで

 

探索の計画を立てていたり、仲間を募ってたり

受付で依頼を申し込んでたり…

慌ただしく右往左往と騒いでいた

 

ナスカ

「おぉう…階段すら満席だ!?」

「受付も厨房もキャパは大丈夫なのかぇ?」

その時、すぐ後ろから振り鐘の音が鳴った

カランカランカランッ♪

 

驚いたことに鐘を鳴らすのはタキシードに

身を包んだミミズクだった

 

商売道具らしい鐘を口に咥えたまま

店内を飛び回っていく

ミミズク

「出航~~!出航~~!」

「ま~た船が1隻、この雲海へと旅立つッスよ~~!」

 

「300トン型雲海ガレー船『コキオロシ』に乗りますは、

 熱光剣の使い手…冒険者タバンサ~!!」

 

ミミズクの出航の音頭に合わせて

客たちは船に発煙弾を撃つ

 

パンッパンッ!

赤に緑に紫と…色とりどりの煙は風に乗って、

船を後押しするように追いかけ、霧散していった

ミミズク

「そして『航海士』は、黄昏空の案内人サティ~!!」

 

「雲海旅は未知の路ィ~

 いかな歴戦の冒険者とて、

 風読術なくしては雲の藻屑ッス~」

 

「『心のスターメモリー』を夢見る冒険者さんたちは

 優秀な航海士を探してタッグを組むのが賢明ッスよ~!」

 

「タバンサ――!!サティ――!!

 がぁんばって来いよぉ――!!」

 

「あんたらの旅たちにぃ…

 かんぱぁ―――い!!♪」

「ミミズクのマスター!

 こっちに雲海ラム、追加でぇ!」

 

ミミズク

「了解ッスよ~」

「みなさんも、一杯いかがッスか~?」

 

ミミズクのマスターが一生懸命に店を飛び回ると

上機嫌な冒険者や客たちは次々に追加の注文を飛ばした

 

ナスカ

「あはぁ~♪ 商売上手なマスターだねぇ♡」

 

あたしたちは愛らしいマスターに癒されつつ

窮屈な席に無理やり座った

 

ソラ

「にしても、やっぱり…『航海士』ですって」

「昨日の時点でも話したけど、結局どの航海士にするの?」

 

ナスカ

「リストにしてくれてたヤツね」

「全員優秀な航海士っぽいし、あたしたちでも

 専属契約に取り付けそうな人もチラホラだね」

 

「ただ…」

 

メーチュ

「ただ…?」

 

ナスカ

「気合が足りない、船も航海士も」

 

メーチュ

「突然の根性論……ッ!?」

ナスカ

「見てよ航海記録、ここだよここ」

「全員が全員、雲海を横方向に広がるように探索してるでしょ」

 

「きっとこっちのほうが生存率も高くて、

 探索も楽なんだろうけど…経験値として浅すぎる……!」

 

メーチュ

「雲海は深く潜る程に危険らしいもんね…ッ!」

 

ソラ

「ふむ…つまりどんどん下へ下へと潜ってくような

 積極的な航海士が居ない…と」

ソラ

「たしかに雲海下層への潜航意欲は重要ね

 私たちが潜ろうと意気込んでも、

 船長が逡巡してたら冒険にならないもの」

 

「分かった、各航海士の気合のデータがないか

 アーカイブをチェックしてみる」

メーチュ

「気合のデータ…ッ!?」

「そ、そんなデータあるかなぁ~ッ」

 

ソラとメーチュが困っていると、

バサバサという羽音と共に

ミミズクのマスターが飛んで来た

ミミズクのマスター

「ど~もッス、風の調子はいかがっすか~?」

「今話題の『ディバグ』一行さんッスよね~」

 

ナスカ

「あら?こりゃ、どうもッス~♪」

「見かねて声をかけてくれるなんて、殊勝なマスターッスね~!」

 

「というかディバグって今、そんなに話題?あたしたち」

ミミズクのマスター

「ホホォ~!そりゃあ、モチロンッスよ!」

「マイナーなこのミューブを一躍、

 大冒険の大舞台に押し上げたッスから~!」

 

「一部オーバーツーリズム問題とか上がってるッスけど…」

 

3人

「あぁ…スミマセンッス……それは……」

 

ナスカ

「それでマスターさん

 航海士のデータって他にないのかな??」

 

「星律教会のアーカイブに載ってるヤツじゃ、

 ちょっと物足りなくて~」

 

ミミズクのマスター

「えぇ――ッ!?マジッスか!?」

ミミズクのマスター

「けどあのデータ、我ら冒険者協会ミューブ支部

 全面協力の下で作ったものッスからねぇ~」

 

「急遽だったとはいえ、ツワモノ揃いのはずッスけど…」

 

メーチュ

「急遽…」

「急遽ってことは…まだ拾いきれてない航海士さんが

 いる可能性もあるんですか…ッ?」

 

メーチュの問いにマスターは困惑する

頭を120度回転させながら、汗々しているのが見て取れた

ミミズクのマスター

「こ、ここだけの話にしてほしいんッスけど…ッ!

 実際、漏れはあるッスねぇ~~……」

 

「密航船とか…お金握らせてデータを抹消してた輩とか……」

 

ソラ

「デ、データの抹消ッ!?不埒な…ッ!」

 

メーチュ

「なにか都合が悪いデータとかなんだろうね…ッ!」

 

ミミズクのマスター

「ただッスよ!ただ!」

「ここ50年で上層の港を利用した船に漏れは絶対にないッス!」

ミミズクのマスター

「この星都アプ・ストリームの

 上層にある22か所全ての雲海港をこの翼で飛び回って

 くまなくチェックしたッスから!」

 

そういってマスターは強調するように翼を

一生懸命バサバサ鳴らした、どうやらマジらしい

 

ソラ

「はぁ……どうしましょ」

 

「妥協してこのリストの中から航海士を選ぶか…

 はたまた、なにかの弾みで凄腕航海士との

 コネクションを手にするか…」

 

「どの道、時間の使い方は考えないとだわ、リーダー?」

 

ソラは寿命時計を取り出し、チラつかせる


ナスカ

「行き当たりばったりをやってちゃ

 寿命がいくらあっても足りないからね」

「大丈夫、策は既に考えてあるッスよ」


「奥の手こそ、あたしの真骨頂」


ソラ

「おぉ…奥の手っ!」


ナスカ

「あはっ♪ まぁ、見てなって~」

「マスター、お立ち台借りるッスよ~!」


そういってあたしは人ごみの中をかき分けてゆく

 

第4話  風の星ミューブ

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