第2話 時の星アンバース

Dパート

 

その拳は時を超越して飛んでくる

 

ナスカ

「ふむぅ、時の理が歪んでるね」

「ならその歪みにタダ乗りするだけだよ」

 

あたしは辺りに充満する時間の歪みを捉え、

バースの力で身体の時の流れをそこに無理やり合わせた

 

―――ブゥン!

 

身体は光や音の速度を超え、視界と聴覚が大きく揺らいだが

それがむしろ敵の攻撃を強調する良い背景となった

そして同時に身体能力と

身の回りの力学的エネルギーを増幅させる

 

ナスカ

「たぁ!」

 

人智を超えた渾身の一振りは時を超え、

降りかかる拳を真っ二つにした

ゴアァアアア!!

 

アクタルテンは一瞬怯んだが

すぐに体勢を整え、大きく咆哮した

 

咆哮と共に黄金色の歪みを広げると

跳躍と共に怒涛の攻撃を繰り出した

 

ナスカ

「あはっ♪」

「小細工が通用しないなら物量って感じィ??

 案外脳筋なアクタルテンだねぇ」

 

ドドドドドドドド!

 

時の力は事象の前後すら歪ませる

 

まるでサッカーの試合のハイライトを何度も

リプレイするかのように拳打は繰り返させられ

地面は夕立に打たれたかのように何度も音を鳴らした

けどあたしはその全ての殴打をいなし両断していく

 

バースを込めた槍斧の刃は時間すら、因果すら断ち、

斬られた腕が再生されることは2度もなかった

 

そして勢いを落とした攻撃についにスキが生じる

あたしはアクタルテンの足元に

あるコアに向け一気に跳躍し、

露出したコアに解析杭を打ち込んだ

 

ナスカ

「ソラ!今だ!!」

 

戦いは決着しアクタルテンの悲痛の叫びが響いた

 

――――そんな気が…した!

 

 

その戦いは時間にして3秒

 

ナスカとの会話中に突如黄金色に包まれたかと思うと

まるでビデオの早送りの映像を見ているかのように

彼女の戦いは高速で流れ、文字通りあっと言う間に決着した

 

そして戦いの決着と同時に解析杭からの反応がみられ

私は本に手をあて即座にデータ回収を開始した

ソラ

「データ回収中!

 残り40%……20%!」

 

大量のデータだったけれどナスカが刺した

杭の位置が絶妙だったのだろう

こちらの解析もすぐに終わった

 

「デ、データ回収完了!

 ナスカ!直ちに撤退を…!」

 

目的は見事達成した

これ以上の戦闘に意味はない…!

 

———しかし

 

ナスカは動かなかった

 

ソラ

「ナスカ…?」

「相手は未知の力を使うのよ?

 すぐにその場を離れなさい!」

 

私は通信装置越しに声を荒げた

それでも彼女は動かない

よく見ると周りの砂塵や煙もピタリと動きを止めている

 

それに気付いた時には、すでに何もかもが遅かった

 

ソラ

「時間が……止められた…!!」

アクタルテンはとどめを

打たれそうになったまさにその瞬間…!

自分とナスカの時間を止めたのだ

 

解析杭だけが作動するのは

ナスカがバースを使って杭を保護したからなのか

 

彼女は自分の身の安全と引き換えに……

私は目の前が真っ白になった

地面に立ってる感覚すら

あやふやになって私はへたりこんだ

 

ソラ

「あぁ……ナスカ!!」

「そんな…こんなところで

 終わるなんて…」

こうなることは予想できた…

事前に安全策を用意することだってできた…!

いくらでもやりようがあった…ッ!!

 

ソラ

「ああああぁぁ…………あぁ……!!!」

 

私はまたしても何もできなかったのだ

私は未来の文明が予想以上に

未発展であることに焦りを感じ、抜かったのだ

 

ナスカの安全性を考えもせず危地に向かわせた…

無垢な彼女の冒険を終わらせてしまったのだ…!

 

ソラ

「全部、私の……責任だ……」

償うことの決して出来ない責任

 

己の無能さとナスカへの罪悪感に心が壊れそうだった

 

ソラ

「ナスカぁ…ごめんなさい…」

 

私は届かない懺悔を口にして

彼女の最後の姿に目をやった

 

だが彼女の姿は妙だった

違和感を感じた

 

ソラ

「ポーズが…変わっている?」

 

彼女は槍斧を天に向けて

掲げるポーズに変わっていた

 

ソラ

「それに螺旋の傷が”脈動”してる……?」

 

ドクンドクンとその脈動はどんどん早くなる

ソラ

「―——時が……止まっていない…!?」

 

脈は沸騰した水のように波打ち、

膨張と縮小を繰り返した

 

そして限界まで加速しきったかと思ったその瞬間…!

パリンッと硝子が割れるような音が鳴り響いた

 

それと同時にナスカはすごい勢いで、

ビュンッ!と、私の方に向かって飛び退いた

 

これもバースの力なのか…?

ともかく、めでたく彼女はやり遂げたのだ…!

 

ヨロヨロと体を起こす彼女に私は駆け寄った

 

ソラ

「ナスカ!」

「す、すごいわ…あんな窮地から抜け出すなんて!」

 

この時代に来て最初にナスカから

感じ得た光のようなもの

 

私はその眩しくて温かい

『希望』に胸がいっぱいになった

―――だが、

 

顔をあげた彼女を見て私は驚愕した

ナスカの体が今まさに崩壊していたのだ

 

顔や体がサイケデリックな物質に変容し

体の輪郭は不鮮明にぼやけている

 

およそ生き物としての様相を失った彼女は

必死に呼吸をしようとえずいていた

 

ナスカ?

「ハァハァ…ア”…」

ソラ

「周辺の理がひどく崩壊している…!!」

「体も時空も法則も物質も…!」

 

「…終焉……そのものじゃない…こんなの……」

 

青色をした『心』の力だけが辛うじて作動して

『ナスカ』としての意識を繋ぎ止めているらしい

でもそれ以外は文字通り、この世のものではなかった

何が起こっているのか分からないが

彼女の命が危機に瀕していると

いうことだけは明白だった

 

ソラ

「今、助けを呼ぶから!

 意思を強く持って!」

 

ナスカ?

「ア…アブァ…」

 

「―――ァゥマエ……」

 

ソラ「えっ?」

ナスカ?

「ナマエ…ヨンデ……ッ!」

 

ナスカは途切れるような声で言葉を発する

私は訳を考えるまでもなく、すがるような思いで叫んだ

 

ソラ

「ナスカ!」

 

「死んではだめよっ!!」

「ナスカ・テンタクルス!」

ナスカ?

「アァ……ア……」

 

その言葉にナスカの

心の力が少しだけ強まるのを感じた

 

私は必死に彼女を抱きしめて名前を呼び続けた…!

 

「生きて!」

「また冒険をするのよ…!」

 

悲しくて涙があふれ出る

 

「あなたの歩みは勇気を与えるの…」

 

「絶望の中でもあなたは温かった!」

 

「だから居なくならないで…!」

 

私はただ抱きしめて、祈るしかなかった

「お願い……死なない…でェ……!」

 

強く…強く祈った

 

祈りの中で私は

ナスカの声を聞いた気がした

ナスカ

「ソラの優しさが溢れてくるよ」

 

「大丈夫、ありがとう」

 

気付くとナスカの体には

確かな物質感と温もりが戻っていた

 

彼女はゆっくりと呼吸をして

静かに寝息をたてたのだ

 

ナスカ

「スー…スー…」

 

ソラ

「乱れた理も、もう感じない…」

 

私はへたり込んだ

 

ソラ

…ナスカ……よかった…

 あぁ!本当によかった…!」

 

私たちは重要なデータの回収に成功した

 

けどなによりも、ナスカが無事に

生きてくれていたことが嬉しかった

 

メーチュという子は

アンバース周辺の探査船に乗員していた

 

彼女に連絡すると手際よくナスカを搬送し

私用の医療室へと運び出してくれた

 

終焉の力…バースの秘匿のためか

身内だけの特別な医療班をもっているだとか

 

ナスカ

「それでね黄金色の光が

 ブワァーってなった瞬間

 拳がド——ンッよ!」

 

メーチュ

「わわわ!」

「黄金色の理はすごいねぇ

 私見たことないよ」



メーチュはテコ族という人とクラゲを

合わせたかのような種族の女の子だった

ナスカ

「おぉ、ソラぁ!」

「お見舞いに来てくれたんだね、感謝っ!」

 

ソラ

「ナスカ…すぐに

 元気になったようでよかったわ」

 

「メーチュもありがとう

 私1人じゃなにもできなかったから…」

 

メーチュ

「ソラさんこそ、ナスカちゃんを

 救ってくれてありがとう!」

 

ソラ「……」

メーチュ

「ソラさん?」

 

ソラ

「私は…!」

「違う…、なにも……出来なかったのよ」

 

己の無能さにまた胸が締め付けられる

ソラ

「私はナスカをただ危地に

 向かわせてしまっただけ…」

 

「ただただ……不甲斐なかった!」

 

メーチュ

「ソラさん…」

 

そんな私の後悔にナスカは

落ち着いた静かな声で答えた

 

ナスカ

「…あたしたちの目的はね、ソラ」

「不死を得ることなの」

 

ソラ

「えっ」

 

ナスカ

「バグは短命な種族だからね」

 

「その目的のために大スターメモリーの

 発見を急ぐ必要があるんだ」

 

「7つの大スターメモリーの力を得れば

 叶わない願いなんてないから」

メーチュ

「でも今回のミッションで見事

 大スターメモリーの手掛かりを

 見つけることが出来たんだよ」

 

「あと半世紀はかかると

 言われていたのに、たった数時間で!」

 

ナスカ

「なんとあたしの寿命2人分の得ッ!」

「にひひ!」

ナスカ

「ソラはね、あたしたちに

 希望をくれたんだ」

 

ソラ

「そんなこと……ないよォ…!」

 

目からボロボロと涙を零れ出す

 

「―——だけど」

 

ソラ

「私も…強くなるからね…ナスカ」

「次は私があなたの助けになるから」

 

ナスカ

「うん!」

「それは頼もしいね!」

そういってナスカはガハハと大笑いした

 

短命で存在すら不安定なバグの彼女の笑顔には力があった

私もこの夢を諦めちゃダメなんだ

 

死ぬ気で、でも生き永らえて…アンバースを救う

そう心に誓った

第2話  時の星アンバース

Dパート