第1話 花と冒険者

パートE

 

マンジュサ

「『アクタルテン』…話には聞いたことあったけど…」

「バケモノ過ぎるって…!」

 

このアクタルテンは40mほどの蝶を思わせる形状で

生き物の体と機械の体を併せ持つ、不気味な構造をしていた

『アクタルテン』とは怪異やバグと同様

『終焉』から生まれたもの

 

特に強力な星遺物が暴走した時などの歪みから

誕生すると考えられている

 

とても強力な力を持ち

終焉からの復興を阻む大きな要因の1つとなっている

ナスカ

「聖樹の枝はアクタルテンのコアとなっているね

 アイツを倒さない限り、制御は不可能っぽい」

 

あたしたちはアクタルテンから200mほどの

瓦礫の影から様子を伺っていた

 

マンジュサ

「露払いをお願いとは言ったけど…これは…

 デカ過ぎるって…!」

「やっぱここは討伐隊を呼びに、一旦バカ速で帰って…」

 

ナスカ

「めちゃくちゃ時間かかるじゃん、それ!」

 

マンジュサ

「でもあんなデカ物…

 あんた1人でどうこうできるものでもないでしょ!?」

「何をしてくるのかも不明だし…」

ナスカ

「あはっ♪ どうこうできるさ」

「今朝、これより大きい大砂蟲を倒したの忘れちゃったの?」

 

マンジュサ

「あれはただの蟲ィ!アクタルテンとは根元から違くてぇ……」

 

「…………」

 

「…………いんや、あの時…!」

 

「不思議な力、使ってたね!」

「砂の上を走ったり、地形を把握したり……」

 

ナスカ

「さっき花の声を一緒に聞いたのもそうでしょ」

 

「『理の歪みの力』…これがあるから、全然戦える」

 

マンジュサ

「バグにそんな力があるとか…マジなん…?」

マンジュサ

「…ただわかった、ナスカを信じるよ」

 

「まじ死んだら許さないよ…!」

 

ナスカ

「大丈夫だよ、相手の力量はもう視えて―——」

 

その時、螺旋の傷が強く疼いた

マンジュサ様も気配を感じ取ったらしい

 

振り向くと色とりどりの花が

こちらを取り囲もうと草を伸ばしていた

花々は無表情にこちらを睨みつけ、ものすごい圧を感じる

花たち

「来たなナスカ・テンタクルスぅぅ!」

「イイ夢見せテあげるヨぉ!」

 

ナスカ

「マンジュサ様、手を!」

 

あたしはマンジュサ様の手を取り、

出入り口方向に向かって飛びのいた

 

あたしは体の中にある理の歪みを使役した

 

特に『生命』の力を歪ませたので

全身の筋力が数十倍にも跳ね上がる

 

ナスカ

「加速ッ!」

 

あたしはマンジュサ様を抱えたまま、

たったひと蹴りで30mほど飛んだ

マンジュサ

「ひぃあ―——っ!」

 

ナスカ

「口は閉じて!舌噛むから!」

 

ドシン!

と、着地し入口に向かって全力疾走

 

花たち

「ほら、可笑しなチカラ♪  キケンな力ぁッ♪」

「人じゃナイ、ヒトじゃない♪」

 

後ろからも前からも、部屋に潜んでいた全ての草花が

こちらを追い込もうと一斉に駆けてくる

 

どうやら力が弱い分、数で攻めるつもりらしい

花たち

「そのチカラ、頂戴っ♪ 人ならざる力♪」

 

ナスカ

「失礼なお花だなぁ…!よいしょっ…と」

 

あたしは腰につけた

特別製のエネルギー・シールド装置を手に取り

歪みの力でその出力を30倍にまで改造した

 

ナスカ

「中型戦艦砲ですら突破できない強度だよ!」

「入口はこれで塞ぐから、そっち側で待っててね!」

 

マンジュサ

「ちょ、ナスカ!?」

「それじゃ、あんたのシールドは!?」

 

ナスカ

「心配ないって、だからマンジュ―———」

 

その時、上から落ちてきた草の塊が背中に衝突した

 

ナスカ

「あっ…!」

 

草は重く、あたしは一瞬息ができなくなる程の衝撃を感じた

 

しかしすぐに足を踏み出し、体を支えた

あたしは踏ん張りながらシールド装置を入口に固定させる

 

これでマンジュサ様は安全だ!

しかし、足元のひび割れからツルが伸び

あたしの両足に絡まりつく


花たち

「ナスカ・テンタクルス♪」

「スキを見せたナ♪  チメー的な隙ッ♪」


花が耳元で囁いた

腕も胴体にも草花がドワッと纏わりつき、

ついには顔まで包み込まれる


体はどんどん締め付けられ、

重みを増していき遂にあたしは膝をついてしまった

マンジュサ

「ナスカ…!そんなっ!」

「だめ!こんところで…死んじゃあ!」

 

「ナスカ!」

 

あたしの名前を呼ぶ声は涙に濡れている

それはどこかドラマチックで

どこか臨場感があって…

 

美しい冒険譚の一文のように思えた…

 

 

いや、まだ大丈夫

余裕がある



あたしは右手首の螺旋の傷、その傷口から

陽炎のような青い『歯車』を取り出した

 

これはあたしの歪みの核

これに形を与え、武器とする!

しかし、その時『歯車』が大きく揺らいだ

花たち

「またバグのチカラ?」

 

「バケモノのチカラ?」

 

花たちの囁き声だ

ナスカ

「……ッゥ!」

「…バケモノじゃない…!」

 

花たち

「ハハハ!必死ジャン?」

 

「オマエは人の形ヲしているダケ」

 

「所詮はバグ、歪ンダ存在」

 

視界はどんどん草に覆われ、

体表は隙間なく草が蠢き合っていた

 

認識できるのはもはや

脳内に直接響く、花たちの囁き声だけだった

「バケモノ同志、仲良クしようヨ♪ ネェ?」



「冒険ハ終ワリ 夢モ終ワリ」

 

「オマエは何者ニモなれナイ」

 

「ダカラ、楽にナロウ?」



「忘レチャウんダ、”夢”も”名前”も」

「タダ歌っテ踊ろう♪」

「踊ろう  踊ろう  踊ろう  踊ろう  踊ろう  踊ろう  踊ろう  踊ろう 」

「踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう 踊ろう」

 

 

遠くから陽気な音楽が聞こえてくる

 

懐かしくて、どこか温かみのある音楽と雑踏

 

このまま旋律に乗ってステップを踏んだら、

それはもう楽しそうだ

ワンツースリー、ワンツースリー

 

リズムを見計らって、今!

 

一歩、踏み出して――――

「――ってぇ、いくわけないでしょ!」

 

自分から飛び出たツッコミの叫びで

囁き声は一気に消し飛んだ



「まったく…力押しで、スマートさに欠ける幻術だね」

 

「…だけど、夢と名前を忘却させる手法は…素直に賞賛だッ」



口を突いて出る喋り草に、徐々に己を思い出す

 

目を開けると、自分の体があったことも思い出した

 

腕や手の形、螺旋の傷があったことも…

 

そして自分の歪みである歯車のことも

マルっと漏れなく覚えてる

 

遠くで女の子の呼び声が聞こえてきた

それが自分の名前だとはっきりとわかる

「あはっ♪ それじゃ、行こうっ」

 

大丈夫

この名と、この夢は魂で覚えている!

 

あたしは『運命の歯車』を掴んだ

 

「歪みだらけのこの宇宙!」

 

「たとえ己が不確かなバグだったとしても、

 その名前に、確かに!あたしが存在する!」

 

 

「今こそ問わなければならない」

 

「輝く夢を追う、その者の名を!」

 

ナスカ

「あたしの名前はナスカ・テンタクルス!」

 

「この銀河の誰よりも!

 輝かしい冒険をする、ステキな冒険者だよ」

腕を一振りすると

運命の歯車は、身の丈ほどもあるハルバードに変わった

 

その一閃は強力な衝撃波と歪みを放ち

纏わりついていた草花を散り散りの細切れにした

 

ナスカ

「お互い歪んだバケモノかも知んないけどさぁ

 この胸に輝く”ときめき”が違うってことを教えてあげるよ!」

マンジュサ

「ナスカ、無事だった!?」

「それに…その歪みの力、半端なくない!?」

 

ナスカ

「あはっ♪ これがバグ本来の力だよ」

「意志に呼応する万能の力!」

 

「マンジュサ様、どうか見届けて」

「惑星ヒガンの運命が変わる瞬間を」

 

マンジュサ様は力強く頷いた

あたしはハルバードを構え、歪みの力をこめた

草花たちは突然の展開に怯みつつも

態勢を整えて4,50輪が束になって襲ってくる

 

ブン!ブン!

 

だけどハルバードの重く素早い二撃が、これらを盛大に散らせた

 

武器にかかる重力も歪ませているので、

羽よりも軽く、振り回すことができる!

 

「こンのぉ、バケモノがぁ! 」

「サッサとクタバれぇえええ!」

 

花たち激昂し、親玉アクタルテンの方に向かってわなないた

 

それを見たアクタルテンは重い体を起こし、力を溜めた後

地面に向かってドパドパと大量のツルを飛ばした

 

アクタルテンの周りの地面はボコボコと揺らぎ

遠く200m離れたこっちまで地響きが轟いた

 

ナスカ

「『生命』の赤色の歪みを感じるね」

「方向は…下からだ!」

 

歪みは色で判断する

 

地面に差したツルからは根っこが伸びているらしい

地中で赤い毛細の束が、大量にこちらへ走ってくるのが視えた

ナスカ

「植物らしく地面を制すつもりかな?

 笑止千万っ!」

 

あたしは脚に渾身の歪みを込め、一気に解き放った

 

体はグンッ!と大きく跳躍し、

アクタルテンの頭上高くまで届いた

 

付近の地面は既に敵の根っこだらけで着地は困難

この空中戦で決めなければ、あいつらの肥しになる

グオオオォオォオォ!


アクタルテンもそれを知ってか知らずか

威嚇のような唸り声をあげ、

体から巨木程の太いツタを高速で伸ばし

こっちを貫かんとしていた


だけど、動きは単純明快

あたしはハルバードにかかる重力を歪め、空中に浮かせる


そのまま指を前に振ると、我が槍斧は自在に飛翔し

向かって来るツルの横っ腹を捉える位置に止まった


ナスカ

「ここだ!」

 

そしてあたしは指を横一閃に振る!

 

ハルバードは一気に音速を超える速度まで加速すると

ヒュッという鋭い風切り音と共に、4本あったツルを豪快に穿ち切った

 

この一撃が相当堪えたらしい

アクタルテンは大きくのけぞり、後ろに大きく後退した

 

あたしは翼を広げ滑空しながら、その変化を観察する

ナスカ

「あいつ……」

「怯えている?」

 

アクタルテンはブルブルと巨体を震わせ

人の顔のような器官は悲しい表情を思わせる様相を見せた

なんと目にも見える裂け目から、涙のような汁をも零してみせた

 

ナスカ

「真似事だ…」

「人の真似事…ッ!」

 

人の感情にはもっと熱い…意志を伴った揺らぎが見えるもの

あのバケモノの動きは、ただただ浅く空しい振る舞いだった

その仕草も犠牲となったヒガンの民から盗んだものだ…


この邪知暴虐に同情の余地など、もはや残されていない…!!


あたしは安全な石畳の床に着地し、

ハルバードを右手に振りかぶった


狙いは胴体中央にあるコア

周りは硬い樹皮で覆われてはいるけど、問題ない

あたしは右腕に『生命』の歪みを集める

 

その細い腕の中には、膨大な筋繊維が生成され凝縮されていく

同時に背筋や足腰の筋肉も増幅させ、あたしは大きく息を吸いこんだ

 

筋量が限界を迎えた瞬間、あたしは全ての張力を解き放つ

 

ナスカ

「ここだぁああ―――ッ!!」

 

投げた槍斧は耳をつんざく轟音と衝撃波を生み、

蓄えた歪みのエネルギーから焼けるような閃光を放った

 

アクタルテンはあまりの速度に避ける時間などはなく、

正面から攻撃を喰らう

 

高速の槍斧は触れる物全てを穿ち

アクタルテンの外殻をメキメキとはじけ飛ばすと

そのままコアを完全に貫いた

アガアアアアアア―――ッ!!

 

心臓部をやられたアクタルテンは、

悔しそうに慟哭し、前のめりに倒れ伏した

 

倒れた衝撃で地面が揺れ、

騒がしい空間に最後の轟音を響かせる



ヒガンの戦いは決着した

 

あたしは呼吸を整え

歪ませた身体や力を元に戻した

その時、後ろから知ってる声が聞こえてくる

 

マンジュサ 

「まさか!マジで怪物を倒すなんて…!

 怪我は…ないカンジだね、ホントに凄いよナスカ」

 

ナスカ

「マンジュサ様……」

 

「…………」

「もしかしてシールドぶっ壊して来た…??」

 

マンジュサ

「ワハハ♪ 意外とね、蹴破れたよ

 開け方を教えてくれないヤツが悪いねっ」

 

入口の方を見ると、特別製のシールドが紫色の煙を上げていた

歪みの力、使っちゃってるぅ…??

マンジュサ

「聖樹の枝は…コアの中にある感じ?」

「ウチも触っても大丈夫かな?」

 

あたしはアクタルテンの方に目配せをした

 

コアはその亡骸の傍に転がっており

ドロドロとした粘液の中にまばゆい赤い光を放つ

聖樹の枝が沈んでいた

 

意を決したマンジュサ様は歩いていき、それをすくい上げた

 

彼女が手を触れると聖樹枝はさらに輝きを増す

新たな主が誕生したからか、

アクタルテンもサラサラと砂に変わり風に散った

ナスカ

「マンジュサ様も今こそ問わなければならないよ」

「その短い命で何を為すのかを」

 

あたしの問いかけにマンジュサ様は一息吸い込んだ

けど迷いもなく、その長髪をなびかせ振り返る

 

マンジュサ

「私の名はマンジュサ・ヒバヌヴァルカ」

「ヒガン星王国第204代目ニルヴァナ・ヒバヌヴァルカ王の第一王女」

 

彼女が聖樹枝を一振りするとそれは一本の長杖へと変わる

そして杖で地面を突くと、その地面から草木が生い茂り、広がってゆく

 

「問わなくたってさぁ、この星の繁栄を心の奥底から願ってんよ」

 

彼女がもうひと突きすると、今度はいろんな花が咲き乱れる

マンジュサ

「花に堕ちた非道の心も払ってあげた」

 

「この子たちに残ったのは純粋な歌と踊りだけ…」

「ウチらはこの愉快な隣人と生きていくよ」

 

「…散っていた一族の悲願もそれで叶うと思う…!」

 

マンジュサ様は少しの間ヒガン式の祈りを捧げた

そして顔をあげて、今度は明るく笑った

 

マンジュサ

「この星を救ってくれて本当にありがとう、ナスカ!」

 

ナスカ

「あはっ♪」

「どういたしまして、マンジュサ様」

ナスカ

「あたしもこの星の繁栄を心から願うよ」

 

「そしてその遠い遠い未来でも

 あたしの名が、冒険譚が語られていることを楽しみにしてる」



草花はこの大広間を既に覆い、発光花が柔らかな燐光を生んでいた

それはまるで幻想的な庭園のようで、ドラマチックにも感じた

 

あたしは照れくさくなって、余所を向くと

マンジュサ様は悪戯っぽく、そのことを笑った

花は歌い、踊る

 

この美しい風景をあたしは、

冒険の先々に見る花の中に思い出すんだろう

 

第1話  花と冒険者

Eパート