第1話 花と冒険者

パートD

 

マンジュサ

「そういえばさ、ナスカはこーんなマジに辺境な星のこと

 …どうやって知ったん?」

 

相変わらず広々とした洞窟内を

進んでいるときの問いかけだった

 

ナスカ

「仲間の1人が奇病にかかってさ、それがきっかけ」

 

「奇病…というかさっきの幻術だね、

 ここ最近銀河中で流行ってんだ」

 

マンジュサ

「マ?銀河中で幻術が…!?」

ナスカ

「妙にテンションが上がって踊りまくるって症状でさぁ」

「そいつ~紳士な性格だったのに

 キャラ崩壊しちゃってもう大変だったんだよっ」

 

その時の踊りを思い出して、

あたしは不謹慎ながらもニヤニヤしてしまう

 

「―――ただ、その紳士君、優秀なバグでさ」

「症状を発症しながらも、自分を蝕む歪みを検知ッ!

 奇病の発生源がこの惑星ヒガンであることを解明したんだよ!」

 

「もちろん踊りながらね」

 

マンジュサ

「はーん♪ それで仲間の奇病を治すために、

 歪みの元凶をぶっ飛ばしに来たってわけか…!」

ナスカ

「それもあるけど、もうひとつ」

 

「銀河中に影響を及ぼす程の、

 歪みのデータが欲しいっていうのもある」

 

「それがスターメモリーを見つける足がかりになるからっ」

 

そういって角を曲がると高い壁が現れた

どうやら行き止まりらしい

 

マンジュサ

「それで銀河の端っこみたいな星にまで来るなんて…」

「おもろい巡り合わせじゃ~ん」

 

「……んーぅ、この壁ちょっと違和感ない?」

ナスカ

「そうだね、めちゃくちゃキレイに真っ直ぐだし…なにより」

 

「風が吹いている」

 

風の出所、植物が揺れるあたりを触ると

これまた真っ直ぐな縦方向の溝が確認できた

 

ナスカ

「人工物…、というか扉だね」

 

マンジュサ様の方を見てお互い頷き、あたしたちは扉を押した

 

扉を開けると気圧差なのか、ピュウと突風が吹き付けた

 

そこは直径30mほどの大きな縦穴状の空間

穴は底が見えない程深いが、

壁面に沿った螺旋階段で下へ行けるようになっている

 

ナスカ

「この上の照明…年代は相当古いけどすごい高性能だね」

「昼間と勘違いするほどの太陽光を発してる」

 

あたしたちは慎重に周りを観察しながら

螺旋階段を降りていった

 

マンジュサ

「見たことない様式…」

「これ一万年前の『終焉』…それより前の代物じゃない?」

 

ナスカ

「おぉ、すごいすごい!!」

「だったら『終焉』の謎を紐解く、貴重な資料だよ…!」

 

1万年前の『終焉』

 

終焉は銀河中に物理的な破壊を振り撒いただけではなく

記憶や記録、精神の崩壊までをももたらした

 

その他にも、理の歪みやそれに起因する怪異・怪物など

1万年経った現代でもその影響に苦しめられている

 

マンジュサ

「これって迷宮の最奥へと続く階段なんだよね」

「聖樹の枝を大事に収めるための造りって感じじゃん?」

 

ナスカ

「強力な遺物は人類に大いなる恵みをもたらすからねぇ

 そりゃ大事なんでしょう」

 

「時にはセキュリティのために

 イヤ~な罠がある可能性もあるし…なんというか…」

 

「冒険をワクワクさせてくれる…!」

 

マンジュサ

「こんな状況で、な~に言っちゃってんの」

警戒しながらちょい小走りで10分

 

あたしたちは螺旋階段の半周分だけ

踊り場になっている空間に着いた

 

すぐ下の方を覗くと同じような踊り場がいくつか続いている

 

マンジュサ

「この踊り場は資料展示みたいなスペースっぽくない?」

「壁にほら…なんかいろいろ描かれてる」

 

「文字は……古代っぽくてムズいけど…

 写真資料や図解ならわかるじゃん」

 

ナスカ

「おぉ!終焉以前の記録じゃん!」

「これも超々貴重ッ♪」

マンジュサ

「いや……でも……」

「やっぱり厳しいかも…」

 

「奥の資料ほど写真も図解も

 黒いノイズのように見えて、うま~く認識できない…」

 

ナスカ

「ありゃぁ…残念だね…」

「終焉の影響かな、記録をも壊すってやつ」

 

マンジュサ

「…かもねぇ」

 

「―――あ、でもこれ見て」

 

マンジュサ様が指した写真資料には辛うじて浸食を逃れたらしい

かつての惑星ヒガンであろう星の写真が残っていた

ナスカ

「わぉ…ヒガンは今じゃ考えられないほど、

 緑に覆われた星だったんだ」

 

マンジュサ

「地上写真もほら!映えるっていうか…

 見たことない花でいっぱい!」

 

これらはきっと聖樹の枝の恵みなんだろう

改めて凄まじい力だと胸躍る

 

残った写真資料はこの他に5枚ほどで、

それ以外の資料はもう黒いノイズに呑まれているようだった

 

しかし調査データをデバイスに軽くまとめていた時

マンジュサ様が異変に気付いた

マンジュサ

「花の声がする、警戒してっ」

 

ナスカ

「りょーかいっ!」

 

あたしは首元の螺旋の傷に手をあてた

これが理の歪みを検知しやすい所作だった

 

「階段の9段下、壁際に弱い歪みを感じるよ」

 

あたしたちは頷き合って、ジリジリと警戒しながら近づく

しかしマンジュサ様は、こっちに向かって制止のジェスチャーをした

マンジュサ

「待って、味方かも…!」

 

ナスカ

「えぇ…?うそぉ~ん、味方ぁ?」

 

あたしが示唆した箇所には確かに一輪の弱々しい花が咲いていた

その横にはうっすらと紋章が描かれている

 

マンジュサ

「こっちはヒバヌヴァルカ家の紋章」

「…それに、この花喋ってるんだけど、話し方が流暢っていうの?」

 

「ちゃんとした人間臭い喋り」

 

ナスカ

「……どゆこと?」

マンジュサ

「普通の花ならもっとカタコトでマジ陽気な喋り方なんよ」

「ウチちょっと会話してみるわ」

 

ナスカ

「あ、それならあたしも聞いてみようかな」

 

「えっと…胸触っていい?」

 

マンジュサ

「急にキッモ…!!!!」

 

ナスカ

「あ、いや…これは……違くてぇ~…!」

「胸元の螺旋の傷の事ね!!」

 

「マンジュサ様が持つ歪みの力…

 それがどんな歪みなのか分かれば、

 あたしも花の話聞くぐらいならできるかもなのよ」

マンジュサ

「よく分からんけど、傷触ったらなんか出来るんね

 そういう事ならどうぞ、はい」

 

そういってマンジュサ様は

あたしの手をとって、胸元の傷にあてた

 

あたしは傷から『心』と『生命』に関する歪みを感じた

その歪みを自身の中で再現できれば完了だ

 

あたしは集中し、深い静謐の中で

気の流れのようなものをグッと掴んで手繰り寄せた

目を開けると、ひと汗かいて

耳と頭の中がボワッと熱くなっていた

 

ナスカ

「耳が…研ぎ澄まされて……あぅぁ……

 けっこうこれ頭チカチカでキツいかも…!」

 

「でも……オーケー!会話、始めて…!!」

 

マンジュサ

「オウケィ~、んコホンっ…!」

マンジュサ

「御機嫌よう」

 

「私はマンジュサ・ヒバヌヴァルカ」

「ヒガン星王国第204代目ニルヴァナ・ヒバヌヴァルカ王の第一王女」

 

「ヒガンの危機に際し、

 迷宮奥に眠る聖樹の枝の力を手に入れんと、ここまで参上しました」

 

マンジュサ様が似合わない丁寧言葉で挨拶をすると、

花もヒョロヒョロとお辞儀を返した

 

そして花が花弁をパクパク動かすと

不思議な感覚なもので、あたしにも人の声が聞こえてきた

喋る花

「あら、御機嫌よウ」

「遥かなる時を超えて、同じ血を継ぐ者と邂逅できたことは…」

 

「―――マジ嬉しい!」

 

ナスカ&マンジュサ

「『マジ』…ッ!?」

 

喋る花

「ワタシはキミの40代も前の世代、1200年前の王女で、名前は………」

「もう忘れちゃったから…ナニガシ・ヒバヌヴァルカとするわね!」

 

ナスカ

「なんか若いな、この花の喋り方…」

マンジュサ

「このナニガシ王女は『花に伝言』を頼んだんじゃん?」

「花と会話ができちゅうってことはバグ…若いはずっ」

 

「……ウチと同じ」

 

「言葉巧みにこの迷宮に誘われ、襲われて

 そして逃げ場のないこの場所で、伝言を残すに至ったんだよ…!」

 

マンジュサ様の握っていた手に力が入った



マンジュサ

「それで…ナニガシ様、聖樹の枝についてだけど…」

「ズバリ、聖樹の枝と花たちの目的はなんなわけ?」



ナニガシ・ヒバヌヴァルカ

「彼らノ目的は至ってシンプル、『繁栄』だよ」

「より多くの種、より広い範囲に根を下ろす、とにかくそれだケ」

 

「この迷宮に人を誘うのも繁栄のためだし

 なんならヒガンを砂漠化させたのも繁栄のためナンダよ」

あたしたちは首をかしげた

 

マンジュサ

「それで繁栄に繋がるもん?マジぃ?」

 

ナニガシ・ヒバヌヴァルカ

「人をイザナうのは言語と思考を学ぶため」

 

「数百年に一度、ヒバヌヴァルカ家に生まれる

 『花の言葉が分かるバグ』をかどわかすのが定石みたイ」

 

「砂漠化させたのは、いわばカモフラージュのタめね」

「植物を司る聖樹の枝が、まさか砂漠の星にあるなんテ誰も思わないジャない」

 

ナスカ

「ちょっとちょっと…狡猾過ぎない…!」

「そんな知的な生物だったの、花って…!?」

ナニガシ・ヒバヌヴァルカ

「うん、人の10歳児くらいの知能を持ツと私は考えテル」

 

「事の始まりは『終焉』」

「終焉の歪みによって聖樹の枝に『心』が宿ったンだ」

 

「『心』は意識を生み、知恵を生んだ」

 

「そしてついには銀河を覆いつくスほど繁栄したい

 という強い野心が生まれタンだろう…」

 

ナスカ

「銀河で繁殖…」

 

「この星の花ならともかく、

 銀河のあちこちで自生してる花たちに、

 意思とか野心があったようには見えなかったけど」

ナニガシ・ヒバヌヴァルカ

「そう見えていたとしたら、花の方ガ一枚上手だったというこト」

 

「だけど不思議ダト思わなイ?」

「人間の生活の至るトコロに花ガあるこトに」

 

「食用・染料・油・繊維とか、実用性の面も多分にあるケれど」

 

「かわいいだとか、綺麗だとか、縁起が良いだとカ!」

「そんな理由で家でも、広大な畑でも栽培されてきた」

 

「果ては冠婚葬祭での花飾りに至るまで…」

「花は不気味なほど、人の『心』に寄り添い過ぎてイルじゃない…!」

 

ナスカ

「………」

あたしは今までの冒険の先々での風景を思い出す

…たしかに、いつだって感動する光景のどこかには花があった

 

ナニガシ・ヒバヌヴァルカ

「銀河の花々はこの迷宮のほどデはないガ、幻術を扱える」

「それは取るに足らない囁きのようナものだケド…」

 

「ジワジワと確実に宇宙を支配すルことでしょウ」

 

「歪ンだ支配は……悲劇を産ンじゃう…」

「だから、この先にあ……る聖樹ノ枝を…ド、ウカ…」

マンジュサ

「ナニガシ様…!ウチらに任せて…!」

 

「ウチとこのナスカが絶対聖樹の枝を鎮めるから!

 だから…安らかに……!」

 

ナニガシ・ヒバヌヴァルカ

「うん……そレ…ハ、頼モ、シイ……」

「ハハ…ハ…、言伝はコレ…デ、オワ…リ…」

 

先代様の言葉を言付かった花は役目を終えたのか

シワシワと黒ずんでいく

 

「下ノ方ヲ…ゴ覧…?」

「…『ワタシタチ』…ガ付イテ…る……カラ」

 

あたしたちは下の階段沿いを見た

 

そこにはヒバヌヴァルカ家の紋章と

黒ずんだ一輪の花が点々と続いていることに気が付いた

それは『ワタシタチ』…

マンジュサ様のご先祖たちだ……

 

迷宮に幽閉されるという絶望の状況の中で

希望という名の知恵を、後世に繋げてきたのだ…!



ナニガシ・ヒバヌヴァルカ様の方を振り返ると

彼女は既に事切れてしまわれていた…

 

黒ずんだ花は紋章の横にぐったりと倒れ、

ご先祖様たちと一緒の静けさに溶けていた

マンジュサ

「聖樹の枝の影響を受けてるウチならを枝を制御できると思う」

「というか、制御してみせるから!」

 

「ナスカ…あんたは露払いをお願い」

 

ナスカ

「了解っ」

 

あたしたちは速足で階段を降りていく

 

奇病の件で銀河規模の事態だと予想していたけど

話はもっと深刻らしい

 

ナスカ

「なにより遺物が

 終焉の悪影響を受けてるっていうのはちょと予想外」

 

ナスカ

「それは歪みの中に歪みを入れて

 シェイクするようなもんでさ…!」

 

「『アイツ』…が生まれちゃってるかも」

 

5分ほど階段を下ってると、縦穴の底へと着いた

 

底からはさらに通路と繋がっていたが、

反響の感じからすぐ奥で大きな空間に繋がっているのが分かった

あたしたちはさらに走る

 

奥の空間が近づくにつれ、

やはり『アイツ』の気配が強くなっていった

 

そして遂に最奥に到着し、それと対峙した



ナスカ

「あはっ♪ やっぱりね」

 

 

「―――――『アクタルテン』だ」

 

そこは古代の祭殿なのか

かなり大きな空間に、おぞましい怪物が鎮座していた

 

第1話  花と冒険者

Dパート