ランダカン支部長
「解析って…は、ハハハッ!」
「何をいうかと思ったら気ィでも狂ったか?」
「教会本部の精鋭を全て動員しても解析に2年はかかる代物だゾ」
「貴様1人でなにができる!? 凡人のキ・サ・マに―—!!」
「ハ~ハッハッハ——!400万キーン!」
ナスカ
「な、なんの値段ーッ!?」
メーチュ
「ソラちゃん、な…なにか算段があるの…!?」
ソラは左手でこめかみをトントンと鳴らした
ソラ
「さぁね…私も正直まだわからないわ」
ランダカン支部長
「頭イカれてんのかぁ!?」
「でもまぁ…ふっ、いい考えが浮かんだ!」
ランダカン支部長
「初代アーキビスト様にはそりゃあ成し遂げるべき悲願があるッ!」
「母星を救うという泣ける話!誰しもが同情をするだろウ!」
「けど力は及ばず…!解析は大失敗!ありゃりゃ~!」
「そこで我々1万年後のアーキビストが全力奮闘!」
「数々の困難を超えついには解析完了を果たすってワケ♪」
「そして初代アーキビスト様は自らの『非力』を認めぇ
現代技術が如何に進化してきたのか!世に知らしめる語り人となるんだわァ」
「情報管理部の権威も鰻登りってスンポー☆よぉ」
ソラ
「…見上げたプロデュース力ね」
「でも、そうね…こっちも無理をお願いしているんだし」
「もしも解析できなかったらピエロだって何だってやってあげる」
ナスカ
「なんでもぉ!?」
メーチュ
「ナスカちゃん、抑えて…!」
ランダカン支部長は笑いを堪えられないらしい
ニチャニチャ音を立てて笑っている
それを横目にソラは終焉のデータが入ってる端末に近づく
ソラ
「ナスカ、メーチュ」
「1つ豆知識を教えてあげる」
ナスカ
「う、うん?」
ソラ
「バグは理の歪みの影響を受けた受精卵から生まれる」
ナスカ
「…?そりゃあ、皆知ってるよ」
ソラ
「でもこれは嘘なのよ」
「正確には…」
ソラ
「終焉に被爆した人間も『直接』バグになるのよ」
ソラが前髪をかき分けるとその左目の中には
グルグルと渦模様が描かれていた、それはまごうことなく…
ナスカ
「螺旋の傷…!?」
ソラ
「前例はないけど、さっき確信した」
「私はバグになったらしい」
そういってソラは左目の傷から青色の歯車を取り出し掲げて見せた
ソラ
「この力があれば私も―————」
ナスカ
「待って!!それは…ダメだ!!」
ソラ
「え…ッ!?」
あたしの制止も空しく
ソラは『運命の歯車』を握り潰してしまった
『運命の歯車』は宇宙から零れ落ちた理の欠片
たかが人間だった者の意志1つで扱える代物では…ない!
ソラ?
「ア˝ア˝ア˝ァ˝ァ˝ァ˝……!!」
彼女の体は理の歪みに飲まれ
砂漠に落とされた水滴のように
その意志は無限大で混沌なる闇に霧散した…
メーチュ
「そんな……ソラちゃん……!
アンバースの時のナスカちゃんとおんなじ…」
「だけど今回は、意志を!……維持できなかった……!」
意志に取り残されたソラの体は
グニョグニョとした不定形生物のように形を忘却し
悲しいほどの沈黙を響かせた
ナスカ
「ソラ…!!!」
時間も空間も感覚できない世界で私は漂っていた
ナスカたちの声も聞こえない完全な闇
為す術もなくなった私は心の瞳を閉じていた
思えば、手で情報を直接触れられるという特異体質の私は
物心ついた時から世の中の全てがデータだった
空の光、風の匂い、人の表情に、星の挙動、細胞の呼吸さえも
全て、遍く全てを観測し把握してきた!
今この手の中にあるなにかは、そのどれとも違った存在
だけど…感覚で、直感で理解することができる
これは『希望』なのだと
私の全身全霊、命の全てを投げ打つに能う果たすべき宿願!
そのために!宇宙の在り方すら『超越』する……力!
ソラ
「私の宿願とは……なんだ!?」
「今こそ問わなければならない!!」
永遠で漆黒の混沌の中から私は、たった一つの輝きをすくい上げた
忘れてはならない大切な……希望!
ソラ
「私の名はアマハ ソラ!」
「時の星アンバースを救世する為に今!!」
「終焉の力に身を堕とさん!」
私は今度こそ、確かに『運命の歯車』を握りしめた
ソラは生きていた…
それに生きてるだけじゃない…『運命の歯車』を我が物にしていた!
ナスカ
「意志が…飲まれていない…!?」
「バグだって限られた人にしか為せない業なのに……!」
ソラ
「ナスカ、あなたが示してくれたのよ
果たすべき願いがあるなら……理だって捻じり切ってやるわ」
「さぁ、運命を…超越する!!!」
ソラは左手に本を転送させ、右手でデータ端末に触れた
『心』を司る理の青い歪みが彼女を中心に強まり解析を始めていく
ナスカ
「これは…あたしたちのバース集中術より何万倍も強い…!」
今やソラの情報処理能力は人智を優に超越し、まさに…バグっていた!
メーチュ
「それに…力を御している…!」
「不安定さがまるで…ないよ…!?」
ランダカン支部長
「な、なにがおこってんだぁよ!?」
「こいつはぁよぉ!なんなんだよぉーー!?」
終焉の天文学ほどある膨大なデータは秒で処理されていってるらしい
数字や文字や暗号のプレビューの束が爆発的に表示と更新を繰り返していた
ソラ
「あぁ……そういえば、考えてなかったわね」
「整頓されたデータ…なんの折り紙にしよう…」
「ナスカ、良い案はないかしら?」
ナスカ
「あ、あたし!?」
「えと…じゃ、じゃあ惑星ヒガンのサクラで」
ソラ
「了解…!」
その瞬間触れていた端末からダムが決壊したかの如く
一気にヒガンザクラの折り紙が生成された!
ゴオオオオオッ!
まさに大爆発!
折り紙の樹幹は部屋の天井も壁も吹き飛ばしてメキメキメキと伸びていく
ランダカン支部長
「うわああああああ!オレ様のビルがぁああ!」
ナスカ&メーチュ
「ヒイィィィィ!!!やりすぎやりすぎィィィ!!」
枝は情報管理部ビルの部屋部屋を突き破って広がっていき
詰めていたワーカホリックたちを、塵芥の如く押し流していった
情報官たち
「あぁあぁああ!なんだこの折り紙はぁあ―――ッ!?」
「デカすぎる…デカすぎぃう――――!」
枝も完全に伸びきりビルは半壊、部屋には輝かしい青空が覗き込む
巨大な桜は一気に花開き、
膨大な解析が終わったことを静かに報せてくれた
大スターメモリーの場所が判明する…という歴史の大きな変換点は
あっけもなく、それも1人の少女によってもたらされたのだ
ソラ
「ふん…こんなものの解析に2年かける予定だったワケ?
現代の精鋭たちも大したことないわね」
ソラは落ち着いた声で言い切った
初めてのバースでも暴走もなく神業をやり遂げたのだ
ランダカン支部長
「修理費ィ…1兆キーン……ア…アァ……」
ソラ
「器の小さい男ね…そんなものこの解析データがあれば
いくらでも取り戻せるでしょ」
「ただ私が使った力『バース』については他言無用よ」
「漏らしたら潰す…!」
ソラは支部長の目の前で拳を握り潰すジェスチャーをした
支部長は瞬間的に損得勘定したらしい、恐ろしいほど態度を一変させた
ランダカン支部長
「そりゃアもう!あっしの口は超鋼鉄メタルより硬いと評判でぇ!」
「だからソラ様とは今後とも仲良くお願いしますよォ~!」
メーチュ
「手の平…ドリル…ッ!」
ナスカ
「…でも、あたしたちも人の事いえないのかも」
あたしはソラの方に歩いて行った
ナスカ
「ソラ、改めてすごいね!
初見でバースを扱えるなんて…天才だ!」
ソラ
「精神や思考の拡張は昔から専門だったから
乱れる意識を捉え切ることができたのでしょうね」
ナスカ
「うむうむ!…まぁそれで~なんちゅーかそのー…
非常に言いずらいんだけど…」
ナスカ
「…仲間になってもらえないかな、正式に!」
「………都合良すぎかな?最初に断っておいて…」
ソラ
「…………」
「…仮説がやっと確信になったの」
「私も残された時間がないのだと、今は感覚する」
「だから…!」
ソラ
「『強行突破』…と洒落こみましょう」
「頼りにさせてもらうわ、ナスカ、メーチュ」
そういってソラは手を差し出した
ランダカン支部長が「ウチのスタッフをかどわかすツモりか!」
と、ほざいたけれどソラがイヤそうに睨むと口を紡いだ
ナスカ
「にひひ!こちらこそ頼りにさせてもらうよソラ!」
あたしはその手を強く握り返した
青空に咲く折り紙の桜は壮麗で
あたしたちの出会いを祝福するかのように優しく風に揺れていた
ソラの顔には出会った頃の絶望の影はもうなく
ただ穏やかに、そして力強い笑顔があった
テルミナの街に突如として現れた巨大な桜はすぐにウワサになった
だけどそれ以上に星律教会からの一報に銀河を遍く全ての人が驚愕したのだ
「ついに宿願だった大スターメモリーの場所がわかった!」
風の惑星ミューブにある『心のスターメモリー』
宝石の惑星サバスにある『法則のスターメモリー』
鋼鉄の星IR-26にある『物質のスターメモリー』
そして隠された領域マウナにある『空間のスターメモリー』
まさに歴史の動く瞬間だった
あてもなく銀河を開拓していた1万年は終わりを告げ
銀河中の冒険者や研究者が当地に向けて一斉に集い始める
「冒険者たちよ、出立の時だ」
「伝説となる舞台へ、今」
その後の街は連日連夜お祭り騒ぎだった
ところ構わず誰しもが各々の夢を語り、きたる冒険に胸を躍らせたのだった!
テルミナ星際宇宙港
メーチュ
「ソラちゃん、これを」
「私たちの冒険者ギルド『ディバグ』、その仲間の証だよ」
ソラ
「『ディバグ』…」
「…そうねバグがあるなら直さないと、だからディバグ…か」
ソラ
「えと、これは…懐中時計?」
「6年と…11か月?カウントダウンしているようね」
ナスカ
「バグの残り寿命だよ、ソラの中にある歪みから計算されてんだ」
ソラは言葉に詰まった
その数値は文字通り命のタイムリミットなのだから無理はない
だから、あたしたちも自分の『寿命時計』を取り出した
ソラ
「あ…」
あたしのには6年と4か月、メーチュのには7年と表示されている
ソラ
「……これは信頼の証なのね」
「いいわ。お互い短い命、託し託されましょう」
ナスカ
「ようし!目標は大スターメモリーの発見!」
ナスカ
「ゆこう!」
あたしたちは街を出発する
行くべき道は終焉のデータが照らしてくれた
最初に目指すのは『風の惑星ミューブ』
そこに『心のスターメモリー』がある